ガンダム夢ごちゃまぜ
​■ガンダム夢小説ごちゃまぜ・登場人物

アリーヤ・ラビリス

設定
・175センチ/15歳
詳細設定

  • 赤のセクターなタイトドレスがトレード・マーク

  • ガルマとイセリナの娘(機動戦士ガンダム)。お洒落で派手好き。

  • 美貌の両親の血を持つアリーヤは、絶世の美女であることは間違いないのだが、中身はメチャクチャなジャジャ馬娘。

  • 好戦的かつ攻撃的。繊細でナイーブだったガルマの娘とは思えないほど図太く逞しい。

  • 育ての親みたいな山田でも手に負えない有り様となっている。

  • おまけに身体能力が抜群に高く、自ら武術の鍛練を初めてしまったり、さらにはMSにどっぷりハマりこんでしまった。

  • 筋金入りのファザコンにしてマザコン。地球よりお父様とお母様が大事。

  • 亡き父を最高にカッコイイ男と確信しているので、現実の男に興味を示さない。

  • ようやくバナージ君に恋をしたものの、彼はミネバ(アリーヤの従姉妹)に惚れてるのであっという間に失恋。

  • 美貌の青年アンジェロからは怪力ゴリラ女とか、ファザコンゴリラとか言われており、いつも殴り合いのケンカをしている。

  • 愛機はメチャクチャ高機能なものの乗りこなせる奴がいなかったザク3改造機。

 

イリシア

設定
・16歳/150㎝
詳細設定

  • ガルマ・ザビ(機動戦士ガンダム)と佐脇水花(オリジナルキャラクター)の息子。

  • 母との別れ、ザビ家の末裔であるがゆえの差別など、壮絶な幼少期を過ごした為に、他者への共感性が著しく欠落しており、一見すると伺える無邪気な性格はそのことの裏返しである。

  • そのため、戦争・戦闘を遊びやゲームとして捉えている節があり、破壊や人の死に対して何の呵責も無いという残虐性を持つ。

  • その一方で、母の愛情を強く求めており、窮地に追いこまれると母に助けを求めるという歳相応の反応を見せている。 

  • 母を傷付け、苦しめた世界(父親を含め)を憎んでおり、「壊れちゃえばいい」と本気で思っている。

  • 父親と同様、前髪を撫でる癖がある。

  • シャアに保護され、母と共に匿われていたが、ガルマの子息である事が発覚すると、“ジオン公国の次期頭領”として政治的に利用されてしまう。

  • その際母と生き別れている。

  • ニュータイプとしての素質の高さを見こまれ、ニュータイプ研究施設に送られてしまう。

  • 実験台に等しい訓練の末、ニュータイプとしての才能を開花させるも、生き別れた母の悲しい末路を知り、世界を心から憎むようになる。

  • 父親であるガルマへの復讐を目論んでいる。

 

九ハ式。

設定
155㎝/A型
詳細設定

  • 佐脇水花のクローンにして、強化人間(強制的にニュータイプにされた人間)。

  • 母親を恋しがるイリシアの為に造られた。

  • 生まれて間もない為、自我が希薄で、口調も片言に近い。性格はマイペース。 

  • イリシアを喜ばせるものを好み、逆にイリシアを悲しませるものを嫌うイリシア至上主義者。 

  • そのため、嫌いなものはガルマ・ザビと恋人のイセリナ(直接の面識なし)。

  • ありとあらゆる事ありとあらゆることを完璧にこなすが、料理は大の苦手。

  • 容姿は佐脇水花と瓜二つだが、佐脇水花とちがって色気はなく、貧乳である(美乳らしい)

  • 搭乗機はキュベレイ。

 

佐脇水花

  • 故人。

  • イリシアの母親で、ガルマ・ザビの愛妾。

  • ガルマの子を身籠った際、シャアに匿われていたものの、ギレンに捕らえられる。

  • ニュータイプとしての高い素質と、類い稀な美貌をギレンに好まれ、愛妾にされていた。

山田

  • 元ジオン公国軍人で、ガルマ直属の部下だった。

  • これといって特徴のない顔をした老人。

  • 妻と娘がいたが、とある事件で亡くなっている。

  • ガルマの恋人であったイセリナとその娘アリーヤを守っていた。

  • おてんば娘のアリーヤにいつも振り回されている。

ダロダ

  • ガルマ直属の元部下。

  • ガルマとイセリナを心から尊敬する者の一人。

  • 山田と同じく、おてんば娘のアリーヤにいつも振り回されている。

登場人物の項目に貼って頂きたい絵.jpg
​●赤黒の天使

空から小雪が花のように舞い散り、ニューヤークシティを白銀に染めあげた。

 

街の中心にそびえ立つ高層ビル群は、雪と冷風によって銀色に輝きながら、その権威の強大さをしずかに物語っている。ニューヤークシティの雪景色は、そんな自然美と人工美の調和によって成り立っており、観光名所としても有名だった。

 

そんな経済都市の上空に、漆黒の光条がはしった。雲を切り裂いて、急降下する。光の槍に貫かれた地球連邦軍のMSが爆発を起こすと、そこから無秩序な炎が生まれ、パイロットを飲み込んだ。

 

「……何だっ!?」

 

地球連邦軍のMSによって破壊されたコックピットの中で、ガルマ・ザビは呻いた。黒い爆煙にコックピットモニターが遮られていたが、冷風に吹き払われたとき、彼はハッキリと目にした。

 

上空を舞っているのは、赤黒いMSだった。異様な輝きを放つそれは、まるで皆既月食のような不気味さをたたえながら、自由気ままに旋回している。味方MS――新生ジオン軍のMSではなかった。

 

「あれは――」

 

ガルマは大きく垂れた前髪を撫でた。コックピットモニターのサブウィンドを開き、正体不明のMSについて調べる。彼は眉を潜めた。それが見覚えのある機体に似ていたからだ。

 

旧ジオン軍のザクやグフ、キュベレイとは根本から違うように見える。ザクやグフはいかにも兵器然とした操行の暑い角ばったた形状をしているし、キュベレイは曲線を多用した鳥のような形状をしている。

 

さらに丸みを帯び、ふっくらとした人間に近い形状。頭が丸く、メインモニターと思われる双眼は大きい。額にはブーメラン状のアンテナが前方に突きだしている。口から顎の部分にかけては赤黒い突起物があるものの、女性的なフォルムの機体となっていた。全体的に赤黒い色で彩られ、右腕には鋭利な刀身のようなものが装備されていた。そして、背面から放出されている粒子――ミノフスキー粒子の色は、禍々しいほど美しい黒だった。

 

ガルマの脳裏に浮かぶものがあった。

 

宇宙を駆け抜ける白き流星。

人ならざるもの。

地球連邦の白い悪魔。

 

「……まさか、ガンダム……」

 

ガルマは腕を伸ばした。モニターに映るそれを、必死で掴もうとするかのように。

 

「ガンダムなのか……」

 

ガルマの口から、その名が叫びとなって響き渡る。

 

「ガンダム……!ガンダムだな!?私はお前を一度たりとも忘れた事はない!」

 

彼は拳を強く握りしめた。地球連邦軍との戦闘によって全身を強打していたが、もはや何も感じていなかった。ただ、拳を強く握りつづけていた。強烈な痛みすら忘れ、自分の人生を大きく狂わせた兵器を睨みつける。

 

ガンダム。

それはかつて、ガルマが追い求めたもの。

愛するイセリナとの約束を果たす為に、強く望んだもの。

そして自分の全てを奪い尽くし、新たなる世界へと導いたもの。

宙を舞う人ならざるもの。

それが、答えた。

 

『――あ~、もしかして死んじゃったぁ?』

 

暗闇の底から揺らめくような声が響きわたる。

 

「……何者だ……?」

 

ガルマはコックピットモニターのサブウィンドを見た。そこに映し出されているのは、クラシカル調のブラウスを着た美しい少年だった。いや、それどころの話ではない。まるで古の神々が自身の手で生み出したかのように、少年はどこまでも美しかった。

 

若いというよりは幼く、少女のようにほっそりした体つきをしている。密編みに結われた髪はパープル色で、瞳は透けるように淡い黒色。肌が抜けるように白くて、唇は熟れたリンゴのような色をしている。 そんな唇をこれ以上ないくらい歪めて笑う少年の顔は、ゾッとするほどの生々しさがある。この世のものとも思えぬ美貌だった。

 

ふと、幻を見たようなあやしい気分がガルマの胸をかすめる。この感覚を、かつてどこかで感じた事があった。それが何だったかを懸命に思いだそうとしていた矢先、少年がわざとらしく眉を下げてきた。

 

『あっれれぇ~?せっかく助けてあげたのにお礼もなしなのぉ~?新生ジオンの総司令官様ってそんなに偉いんだねぇ~。知らなかったなぁ~』

「わ、私を助けただと……?」

『え~、もしかして状況分かってないのぉ?今の今まで地球連邦の雑魚キャラにやられそうになってたじゃん~。頭大丈夫ぅ~?』

「私は……」

 

そこでガルマは我に返った。降下してくる機体を見つめながら、自分がどんな経験をしていたか思い返す。

 

ニューヤーク。

新生ジオンの建国を宣言して……

地球連邦軍の襲撃。

空から謎の機体が降下して、

そこに搭乗していた少年に救われ、

こうして対峙している。

 

「……君の、君の名前は?」

『はぁ?お礼はナシなの?』

「……助けてくれてありがとう。君の名前を教えてくれないか」

『ふぅん。やっぱりボクの事は知らないんだねぇ~』

 

そう言って笑う少年は小悪魔めいた天使、天使のような小悪魔、そのどちらかをすぐに思い浮かばせるものだった。その笑顔に、ガルマは一瞬、戦場にいることを忘れそうになる。しかし、彼はそれに抗うように考えた。不自然なほど愛くるしい少年の笑顔を見つめながら、懸命に思考を巡らせる。その集大成とも言えるような疑問が、こぼれるようにガルマの口からポツリと漏れた。

 

「……君、どこかで会っただろうか?」

『!』

 

少年は一瞬驚いた顔をしていたが、急に大声をあげて笑い出した。その無邪気な笑い声は氷で出来ているかのように冷たく、ガルマの心臓を凍りつかせる力があった。それは最も純粋なるものを有している。

 

そう、悪意だ。

 

『アハハハハハハハハ、ハハハハッ、ハハッ!!』

「な、何がおかしい……?」

 

ガルマは呆然とした声で訊く。しかし少年からの返答はなかった。壊れたように、笑って、笑う。その意味も目的も分からないまま、彼はジッと少年を見つめた。それが彼に出きる唯一のコミュニケーション手段で、だからこそ、その眼差しはどこまでも真摯なものだった。

 

少年の笑い声は、規則性がないコンピューター音のようにしばらく響いていたが、何の前触れもなくピタリと止まった。ガルマは真剣に答えを求めている。少年はそれを不快に思ったのか、めんどくさそうに前髪をかき上げた。

 

害虫でも見ているかのような表情を浮かべて、悪意に満ちた言葉を紡ぐ。

 

『ねぇ、脳ミソお花畑で出来上がってるの?会った事なんかあるわけないじゃん』

「……会った事もないのに、どうして私の名前を知っているんだ」

『うわぁ、本当に脳内お花畑なんだ~。イッターイ~。テレビだよ、テレビ。そんなんだから新生ジオンだの、建国宣言だの、イッタイ発言をテレビでしてたんだねぇ~』

「……私は本気だ」

『ふぅん、自覚症状すらないんだぁ』

「君、いい加減にしたまえ。助けてくれた恩があるとはいえ、これ以上の暴言は――」

『助けたぁ?あ~、それ本気で信じたの?』

 

ガルマは眉間にしわを寄せた。少年は獲物を見つけた猫のような顔をして、冷えきった目を光らせる。整った、宝石のように磨きあげられた歯がかすかに見えていた。

 

『邪魔だったから消しただけだよ。それ以上の意味なんてなぁんにもないんだよ?ボクの言ってること分かるよね』

「ジオンの兵士か。ギレン兄上に何を命じられた?」

『新生ジオンの総司令官様のくせに分からないのぉ?』

「質問を質問で返すのはやめたまえ!だいたい、ジオンの兵士がどうしてこのニューヤークに――」

 

ガルマが問いつめようとした矢先、背後で鼓膜を破りそうなほどの轟音が轟いた。重なりあった銃声が響きわたる。彼は浅い呼吸を繰り返して、メインモニターに映るMSを確認した。味方のMSではない。

 

空を、巨大な翼で打ちながら現れたそのMSは、新型のキュベレイだった。怪物のような姿を見せつけるように翼を大きく広げ、加速してきた。この状況が分からないほどガルマは愚かではない。呼吸が苦しかった。

 

『――二対一でズルい?』

 

ガルマの思考を先読みするように、少年は言った。前髪をゆっくりと撫でながら、愉しそうに目を伏せる。

 

『でもそれは違うよ。これはボクのオモチャなんだからねぇ?』

「……子供の玩具にしては高価だな。ギレン兄上はこんな物を君にプレゼントしたのか?」

『もちろん。ボクは特別だからねぇ』

「ニュータイプか」

『あはぁっ、やっと分かったぁ?ガルマ総司令官様ぁ』

 

そう言ってニヤリと笑った少年の顔には、得たいの知れない狂気が含まれていた。するとタイミングを見計らっていたかのように、通信を報せる電子音が鳴り響く。ガルマはパネルを操作して、サブウィンドウを開いた。

 

コクピットに座ったジオン軍専用パイロットスーツ姿の美しい乙女が映し出される。キュベレイのパイロットだった。

 

「……!?」

 

ガルマは目を見開き、サブウィンドウに映るを乙女を見た。口をいっぱいに開いたが、声は出なかった。喉が苦しげに鳴るだけだ。一言も発することが出来ないまま、彼は懸命に思考を巡らせた。しかしそれだけだった。巨大に膨れ上がった感情と理性の濁流にのまれ、流されてしまう。目の前に広がる光景、その全てに圧倒されていた。

 

艶やかな黒髪をツインテールに結んだ、美しい乙女だった。体もまだ少女期を脱していない、ほっそりとした体つきである。

 

かつて、ガルマが恋い焦がれた女に似ていた。いや、そのものだった。

 

「……っ!」

 

ガルマは目を見開いたまま指さし続けた。内蔵から絞りだしたような声を漏らす。答えを求めように、もう一つのサブウィンドウに映る少年を見つめた。彼は笑っていた。まるで何かの生理現象であるかのように、いつまでも笑っていた。それが一つの答えだと気づいたガルマは、大きく息を吸い込んだ。吸い込んで、今自分が言うべき言葉を吐き出す。声は震えていた。

 

「……か、彼女は死んだはずだっ……!?」

『ク……アハハハハハハハハ、ハハハハッ、ハハハハッ!!なぁにそのマヌケな顔~!?』

「笑ってないで答えろ!!君たちは何者だ!?」

『もう分かってるでしょ?』

「何がだ!?」

『ボクらの正体だよぉ?』

「なっ……な、んだと……」

 

寒気を覚えたようにガルマは身を震わせ、少年と乙女を交互に見た。二人の美貌が彼を惑わすように妖しくきらめいている。禍々しくも美しい彼らの色香に、全身の血が引く思いだった。これを知っている。この狂おしいほどの熱情を、ガルマは一度たりとも忘れたことがなかった。であるからこそ、過去の幻だと決めつけて胸の奥に封じ込めた。それが、その全てが現実のものとして現れた。言葉にする事すら恐ろしい。しかしだからといって屈するわけにはいかない。

 

新たな未来を切り開くリーダーとして、それは絶対に許されない。

 

「……水花は私の子を身籠ったまま死んだ。生きているはずがない。生きていたとしても、年が合わない。この娘はまだ子供だろう?」

『あれぇ、切り替え早くない?繊細でナィーブなザビ家の坊ちゃんなのに』

「今の私は新生ジオン総司令官、ガルマ・ザビだ」

『あぁ、ハイハイ。それは大変失礼致しましたぁ~』

 

少年は肩をすくめて両手を広げてみせた。それから何かを考えるように視線を外したあと、大きくため息をつく。ガルマは回答を促すように、じろりと睨み付けた。

 

『……イリシアさま』

 

乙女がガルマと少年の通信に割り込んだ。銀の鈴を振るように美しい声だが、そこに感情は含まれていない。冷たい機械のような声で、少年の名前をもう一度呼んだ。

 

『イリシアさま、なぜガルマ・ザビを、拘束しないのですか。私達はその為に――』

『はぁ、空気読めよ九八式ぃ~』

 

大きくもなく恫喝の調子もない、片言で話す乙女の言葉を少年――イリシアは遮った。鬱陶しそうに片手をあげて、顎でガルマを指し示す。九八式と呼ばれた乙女は、まじまじとガルマを見た。くりくりした大きな瞳が儚げに揺らめく。

 

『空気は、吸うものです、読むものではありません。イリシアさま、なぜ、そのような――』

『あああ~、ハイハイどうもスイマセンでしたぁ~。何でもいいからお前は黙ってろよ、九八式』

『かしこまりました、イリシアさま』

 

九八式はそれきり黙りこんだ。愛くるしい顔からは意志がまったく感じられず、能面のように無表情だった。その独特な雰囲気にガルマは覚えがあった。ジオン軍による極秘のニュータイプ人間製造計画、その失敗作が遺棄されたという話を聞いたことがある。

 

ガルマはジワリジワリと嫌な予感が背中を駆け上がってくるのを感じた。

 

「……水花のクローン人間か」

『そうそう~。ボクの為だけに造ってくれたんだよ?本当にバカみたいだよねぇ~。代替えにもならないよ』

「ギレン兄上が?」

『他に誰がいるの?』

「なぜそうする必要がある?」

『なぜって?』

「水花のクローンを君の為に造る理由は何だ?」

『だからもう全部分かってるでしょ?』

 

イリシアは挑発するように首を傾げてみせた。淡いパープルの髪が揺れるたび、甘やかな香りが漂ってくるような気がした。頭の中からワンワンと幻聴が響いている。それは恋い焦がれた女の甘い甘い声だった。

 

ガルマくん、ガルマくん。子どもが出来たの。ガルマくんと私の子どもよ。きっと男の子よ。え、どうして分かるかって?それは、それはね――。

 

……通信を報せる電子音が鳴り響く。ガルマはゆっくりと目を開けた。くらくらとする頭を抱えながら、回線を開いた。

 

『――ご無事ですか、ガルマ様』

 

ガルマの顔がパッと明るくなる。新生ジオン総司令官、その第一副官からの通信だった。彼が最も信頼する部下であり、最も尊敬する教師である。思わず大きな声をあげた。

 

「山田か……!」

『遅くなりまして申し訳ありません。状況は分かっております。直ちにそちらへ向かいます』

「場所は、場所は分かるのか」

『これでも一応ニュータイプですから』

 

山田は淡々と答えた。まるで教科書でも読み上げるように言葉をつづける。

 

『今ガルマ様の目の前にいるのは、若い娘と少年ですね?』

「ああ。どちらも新型のMSだ」

『分かっております。どうかその場を動かないで下さい。彼らに悪意はありますが、殺意はありません。あなたに銃口を向ける事はないでしょう。大丈夫です。彼らに殺意はありません』

『――はぁ、何もかもお見通しってわけかぁ』

 

イリシアは遊び飽きたように両手をあげた。それから意味もなく前髪を撫でると、パッとコントローラーを握った。歯の間から笑い声をもらす。

 

『見るからに雑魚そうなニュータイプだと思ったから無視してたけど、そうでもなかったみたいだねぇ~。おじさんの言う通り、今日はご挨拶しに来ただけだよ』

 

イリシアはニッコリと笑った。しかしその笑みはどこまでも冷たく、見た者をゾクリとさせる威力がある。かれはその表情を浮かべたまま、囁くように言った。

 

『“ガルマお父様”に、ね?』

「……水花は、水花は死んだはずだ!」

 

ガルマは精一杯の力を込めて反論した。しかしその言葉の矢も、イリシアの不気味な笑みによってスルリとかわされてしまう。

 

『それマジで信じてたのかよ。本当に脳ミソお花畑だな』

「そ、それでは水花は生きていたのか」

『だからボクが此処にいるんだろ』

「……そんな馬鹿な……」

『バカはお父様だよ』

「……イリシア、お前は」

『気安くボクの名前を呼ぶなよ。この薄汚い偽善者』

 

イリシアは断定的に言った。体の奥底から響くような重い声がコックピット内に轟き、ガルマの鼓膜を震わせる。

 

「水花が生きて……生きていただと……」

 

ガルマはモニターの中のイリシアを呆然と見つめた。視界が徐々に暗くなっていく。目には見えない大きな闇に呑まれるような感覚に苛まれながら、彼はその身を震わせた。恐怖からではない。もっと根深い何かがそうさせているのだ。業の類いかもしれないし、そうでないかもしれない。

 

水花、とガルマは心の中で呟いた。それは雨音のようにひっそりと反響する。

 

ガルマにとって佐脇水花は初恋の乙女であると同時に、初めて知る大人の女であった。であるからこそ彼の内心、その上席を占めている存在だった。それは愛するイセリナと婚約関係になった今でも変わらない。ガルマは底のない海を漂うクラゲのように、水花という海の中をさ迷い続けているのだ。佐脇水花という存在は、彼にとってある種の呪縛になりはてていた。

 

ガルマはもちろんそれに気づいていた。愛おしいイセリナを抱いた夜、それを思って背筋が震えることすらあった。そうであるにも関わらず、どうして水花を恋しく思ってしまうんだろう、彼にはその理由が分からなかった。自分と水花の子だと言うイリシアを前にして、そんな異常極まりない状況のなかで、ひどく嬉しくなってしまうのはなぜだろう。分からない。全く分からない。

 

『……お父様は本当に何にも知らないんだねぇ~』

 

イリシアは苦笑気味に小さく呟いた。前髪をくるくると弄りながら、目を細める。これが大人。オールドタイプ。成長するにつれて純粋さを失っていき、鈍化する。いや、腐り果てる。こんな奴のせいでボクのママは――。

 

『だからお母様は死んでしまったんだ』

「……待ってくれ。何があったか話を聞かせてくれ」

『何でボクがわざわざ教えてあげなくちゃいけないのぉ?知りたいなら自分で調べなよ、大人だろ?』

「私には知る義務がある」

『義務?大人ってそういうの大好きだよねぇ。ただの自己満足なのに』

「そうじゃない!私は――」

『あぁ、もういいよそういうの。ボクもう飽きちゃったしさぁ』

 

イリシアはうんざりしたように首を降り、膝の間の専用ポッドに収まった人工知能球型マシン・ハロに顔を向ける。機体塗装は深緑色で、目にあたるLEDは赤と金のオッドアイだった。

 

『じゃ、帰ろっかハロ』

『ハイハイ』

 

ハロが球体をクルクルと回転させながら、LEDを点滅させる。それが彼らの合図だった。イリシアがペダルを思いきり踏み込むと、機体は赤黒い輝きを放って上空へと飛翔した。イリシアのニュータイプ能力に反応して、背中にあるミノフスキー粒子放出口から、赤黒い粒子が湯水のように大量噴出される。それはまるで赤い翼だった。その翼が強大な力を発揮する。猛然と、圧倒的な勢いをもって拡大していく。

 

「……!」

 

ガルマは息を呑んだ。かつて見たことのない光景に圧倒されていた。世界が赤く染められていく。赤黒い光の粒子は大洪水が溢れだしたかのように、ニューヤークの街を覆いつくしている。まるで天使の衣のように、まるで悪魔の炎のように、街の彩りを変えていく。すべてが赤黒い光に包まれる。

 

その暴力的なミノフスキー粒子の散布量に、ただただ驚愕していた。

 

『じゃあまた今度会おうね、お父様』

 

赤黒い光の奔流、イリシアがかすかな冷笑を浮かべて言った。しかし彼の瞳に映っているのは憎しみだけではない。

 

深い深い哀しみが宿っていることを、ガルマはまだ知らなかった。

​●アリーヤちゃん1

――宇宙世紀0096年。

第二次ネオ・ジオン抗争の終結から3年。

シャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)の反乱が終結したことで地球圏は束の間の平穏を得たが、世界が大きく変化することはなかった。

 

「……で、この賑やかなコロニーがインダストリアル7なのね?」

 

ほんのりと青みががったピンク色の髪をかき上げながら、若い娘は周囲をキョロキョロ見回した。インダストリアル7、かつてサイド5(またの名をルウム)と呼ばれた工業コロニーは、人工太陽のおかげで心地よい昼を迎えようとしていた。

 

そんなランチタイムで賑わう繁華街の街路をてくてくと歩きながら、娘は楽しげに声を弾ませる。

 

「ふうん、思っていたよりも元気そうなコロニーですわねぇ。ね、ヤマダ?」

 

そう言ってくるりと後ろを振り返った娘は、身長175センチほどの美女である。ほんのりと青みがかったピンク色の髪を肩まで切り揃え、長い横髪はパーマでアレンジしてある。大きくて澄んだブルーの瞳は生き生きとした色と輝きがあった。ほっそりと、それでいて弾力のある肢体はこれ以上ないほど魅惑的で、凛々しい(ハンサム)印象を受ける。身に付けているのは身体にピッタリした派手なチャイナ風ドレスで、魅惑のボディラインがさらに強調されていた。そして言葉遣いの方は、特徴的なてよだわ言葉(お嬢様言葉)なのだが、口調はかなりぞんざいである。

 

「アリーヤお嬢様、もう少しお立場というものを」

 

額に汗を拭いながら応じたのは、山田と呼ばれる初老の男だった。旅用のリュックを背負ってよたよたと歩いている。そんな彼の困惑を気にも止めてないように、娘ことアリーヤはお上りさんのような態度で街並みを眺めていた。

 

「とっても賑やかなコロニーねぇ。街にも色々な人が歩いていて、故郷とは大違いですわ。とってもいい気分になれますわねぇ。故郷から追い払われて長いですから、こんな賑わいを見ると心が浮き立ちますわね」

「それはまぁ、そうですが」

「あら、ヤマダ。向こうの通りはさらに賑やかですわよ。『ラーメン祭り』ですって。ヤマダ、あなたの故郷の食べ物ではなくって?わたくしラーメンというものは食べたことがありませんの。ここはぜひイセリナお母様へのお土産話に食べて」

「ですからアリーヤお嬢様、もう少しお立場というものをですね」

「そうお嬢様お嬢様とトイレの前でせっぱ詰まっている人のように呼ばないでくださる?決めたでしょう。この旅のあいだわたくしはお嬢様ではなく、ニューヤークの有名コーヒー店のオーナーの愛人が産んだ2番目の娘でお前はわたくしの老僕で店の後継問題でもめて二人してニューヤークから逃げ出したというとっても複雑な設定なの。とにかく、まずはラーメンよ。ほら、あのニンニク爆裂ラーメンなんて」

「ですからそういう事ではなくて」

「あら、もしかして本当にトイレに行きたいの?遠慮することはありませんわ、何事も我慢はダメ。年をとると近くなるでしょうからね」

「ですからアリーヤお嬢様……、覚えてますか……、あなたが故郷を逃げ出した時にどんな騒ぎになったか」

 

山田は両手で頭を抱えた。

 

「……ちょっと大きな音がしましたわね」

「ご自宅が全壊するほどギラ・ドーガ(ネオジオン主力MS)で吹き飛ばしたのはどこの誰です。だいたいお嬢様はいつも限度というものが」

「ヤマダ、何を言ってるの。仕方がないじゃありませんわ。わたくしの大切なお母様がネオジオンとかいう変なテロ組織の人質にされていたのよ。見張りの者をビックリさせなきゃお母様が逃げられないじゃない。とにかくお母様がお婆様の家に逃げられて良かったわ。それにね、あれくらいにしておくとテロか何かと間違えてくれるかもしれないと思ったのよ。ガルマ・ザビの正統な娘であるこのわたくしを狙う輩なんて、星の数ほどいますからね」

「自分で見張りに盗んだギラ・ドーガでご自宅を破壊すると告げたのはお嬢様です。ご自宅を吹き飛ばした時、イセリナお母様がどんな顔をされていたか見ていなかったのですか」

「強く美しくなった娘の成長ぶりを見て泣いていましたわね」

「そうではなくてですね」

「ヤマダ、細かいことを気にすると白髪が増えますわよ……あ、もう全部まっ白でしたわね」

「誰のせいだと思っておられるんです!ともかくですね、お嬢様と私はネオジオンから追われている身なんですよ。おそらく追っ手も山のように放たれているはずで、このコロニーにも確実に潜入しています。今まで見つからなかったのは運が良かっただけで」

「きっと天国にいらっしゃるお父様がわたくしを守ってくださったのね」

「だからそういうことじゃなくて」

 

山田は口をモゴモゴとさせた。かつての彼ならば――人類史上最悪と称される一年戦争を生き抜いた彼ならば、どんなに追い詰められようとも口は滑らかに動いていたのに、いまは、舌がピクリともしない。なにも言い返せない。今は亡き主君、ガルマ・ザビの血筋を引くアリーヤの強烈すぎる個性に、彼は強い衝撃を受けているのだ。

 

美貌の両親の血を持つアリーヤは、絶世の美女であることは間違いないのだが、中身はメチャクチャなのであった。好戦的かつ攻撃的。繊細でナイーブだったガルマの娘とは思えないほど図太く逞しい。それを最大限に発揮する場面に何度も出くわしているせいで、山田でも手に負えない有り様となっている。おまけに身体能力が抜群に高く、その手の才能を異常なほど持っていたのである。本人もそれを自覚していたため、自ら武術の鍛練を初めてしまったり、さらにはMSにどっぷりハマりこんでしまった。故郷のMS大会では10歳という若さで史上最年少優勝を果たしている。

 

そのせいで、美しい見た目からは想像が出来ないほど強く逞しい女戦士になってしまい、15歳のこの年まで恋愛感情を抱いたことはない。美しい恋を夢見るより、戦いの方がずっと好きで、さらに言ってしまうと現実の男達よりも亡き父の方が圧倒的にカッコイイと信じ込んでいる、筋金入りのファザコンだった。

 

何でこんな風に育ってしまったのかと、悩み苦しむ山田のことなど気にも止めず、アリーヤは満足げにうなずいた。

 

「それにしても追っ手、追っ手ねぇ……。いいわね、それ。本当の反逆者や亡命者みたいで。ああ、何だか燃えてきますわ」

「いえ、本当にそうなんです!あなたはザビ家の血筋を引くわけですから。だからイセリナお母様と共にずっと身を隠されていたのでしょう?そしてネオジオンとか言うジオン公国の再建を企てている輩に見つかって今に至るのです。分かりますか、私の言っていることが」

「ヤマダ、声が大きくてよ」

「大きくさせたのは――」

 

そこまで口にしかけたところで、山田の表情が変わった。今までの、弱り果てた空気が消え失せ、磨きあげられた鋼を思わせるものが浮かび上がる。そのままの表情で彼は告げた。

 

「お嬢様」

「分かっていますわ。わたくしの背後に少なくとも二人。あなたの背後には三人」

「かなりの手練れかと思われます。左右には逃げられませんね。両方とも、店が満員で足の踏み場がありません。挟まれたというところでしょう」

「……ヤマダ、あなたはどう思う?」

 

アリーヤは髪を撫でながら訊ねた。美しい声は相変わらずだが、やはり普通ではないものを感じさせる。声音に震えひとつ含まれていないのだ。

 

「わたくしはあなたの勘を信じますわ。あなたの勘でお母様とわたくしはこうして今の今まで生き延びることが出来ましたもの」

「お戯れを。私の勘などたかが知れていますよ。私はあなたのお父様であるガルマ様をお守りすることが出来なかったのですよ」

「わたくしの傍を離れないのはその罪ほろぼしってわけ?」

「私はガルマ様のご命令に従っているだけです」

「忠義を貫くってわけね。それとっても素敵だと思うわ。何たってわたくしのお父様への忠義ですもの。ええ、信じるに値するわ。言ってご覧なさい」

「……殺すつもりはないでしょう。殺気がなさすぎです。私たちを捕らえるつもりではないかと」

「ネオジオンとかいう変な組織かしら。ああ、やだやだ。美しい女の背後から迫ることにためらいを覚えないゲス野郎は一体どんなお顔をしているのかしら?」

「嫌になるほど美しい顔をした青年です。いえ、危険なほど美しい顔というべきでしょうか」

「あなたそっちの趣味がおありなの?」

「まさか。私は亡き妻一筋ですよ」

「あらそう」

 

アリーヤはこっくりと頷いた。それから子供のような目でコロコロと笑って、両手を大げさに広げてみせる。静かな、それでいて挑戦的な声でつづける。

 

「それじゃあどうしましょう、ヤマダ。ここにいる全員をボッコボコにして差し上げましょうか。それともぶっ飛ばして差し上げましょうか。それとも血祭りに」

「アリーヤお嬢様、どんどん物騒になっています。それにこんな平和な繁華街で騒ぎを起こしたら、警察に捕まるのは私たちですよ」

「相手は逃走中のテロリスト集団でしょう?騒ぎを起こされて困るのはあちらじゃないかしら」

「ここには関係のない民間人が数多くいます」

「ああ、そうだったわね。じゃ、平和な繁華街の住人らしい方法で撤退させましょう」

「と、申しますと?」

「ここは平和な繁華街で、おまけにわたくしはか弱い美女。やることは一つしかありませんわ――ヤマダ、少し離れていなさい」

「はぁ」

 

そのか弱い美女が家をぶち壊すのかと思いながら、山田はサッと身を引いた。アリーヤはかすかにウィンクしてみせ、大きく息を吸い込んだ。二人を取り囲む態勢を取っていた追っ手たちの間に動揺がさざ波のように生じる。彼らは意味ありげに目配せを交わしながら、アリーヤに近づいていったちょうどその時、アリーヤは大声を張り上げた。

 

「あぁーれぇー!だれかぁー!」

 

絹を切り裂くような女の悲鳴に、繁華街の住人が一斉にどよめく。人々の注目がアリーヤに集まる。繁華街の男たちの視線が外れることはない。中身はメチャクチャなジャジャ馬娘だが、彼女は美貌のプリンスガルマ・ザビの子供なのだ。注目集めに成功したアリーヤは即座に次なる行動へ移った。

 

「変な男がぁ、変な男たちがずっとわたくしの後をつけてくるのぉー!ストーカーよぉ、痴漢よぉー!わたくしをさらって何かするつもりなのよぉー!嫁入り前のわたくし体が汚されてしまいます、犯されてしまいますわー、助けて天国のお父様ぁー!いやぁー!」

 

アリーヤはポロポロと大粒の涙をこぼしながら、両手で顔を覆う。 その演技のクオリティーといったら一流の女優も顔負けである。山田は口をあんぐりと開けた。するとタイミングを見計らっていたように、繁華街の男たちが一斉に駆け寄ってくる。並の女なら知らん顔されていただろうが、アリーヤはこれ以上ないぐらいの美女なのだ。すぐにわざとらしいほどに頼もしい声が飛んでくる。

 

「大丈夫ですかお嬢さん」

「あなたをつけ回す不埒な奴とはどいつです」

「誰か警察を呼ぶんだ!痴漢がいるぞ!」

 

アリーヤは完璧な演技を続けながら追っ手を指し示した。

 

「ほら、あの人たちですわ!フードを被ってる人たち!さっきからずっとわたくしの後をつけてくるのぉ!このままだとわたくし、あの人たちに犯されてしまいますわぁ!そんなことになったら天国のお父様に顔向け出来ません!あぁお父様、親不孝をお許してぇ!」

「おおお……」

「それは許せん」

「この変態ストーカーどもぉ!」

「逃げる前に捕まえろー!」

 

呆気に取られている追っ手に男たちが一斉に突進する。慌てて隠し持っていた銃を取り出そうとした者もいたが相手が悪かった。ここは民間人とはいえここは工業コロニーである。肉体労働で鍛え上げられた彼らのパワーは追っ手をはるかに上回っている。たちまち繁華街は大騒ぎになった。アリーヤへ襲いかかろうとしていた追っ手は男たちの圧倒的なパワーを前にして次々に倒れていく。悲鳴をあげ、失神する者すらいた。

 

そのムチャクチャな光景を山田は呆然と見ていた。

 

「何をしているのヤマダ、今のうちに逃げますわよ」

 

アリーヤは山田の手を取り、大騒ぎの輪からそっと距離を置いた。いたずらめいた笑みを浮かべて、かすかにウィンクしてみせる。

 

「これで奴らは追いかけてこれないはずよ。ね、これなら問題ないでしょう?」

「あ、アリーヤお嬢様、騒ぎを起こしてどうするんです。それになぜあのように無茶なことを」

「ヤマダ、ここは治安のいいコロニーよ。警察もあれば男気ある善人もたくさんいるのよ。それともわたくしが直々に血祭りして差し上げた方が良かったかしら?」

「いっそ地球連邦の保護を受けた方が良いのではありませんか」

「お父様を死に追いやった連邦に頭を垂れたくありませんわ」

「ですがアリーヤお嬢様」

「ヤマダ、わたくしはお父様の名を汚す事だけはしたくないのよ。分かってくださるわね?」

「ご自宅を自ら破壊したではありませんか。あれはどう説明するんです!」

「あれは正当防衛!先手必勝!やられる前にやる!お分かりかしら!?」

 

山田は頭を抱えながら走った。ニュータイプでありながら、このメチャクチャなジャジャ馬娘の思考回路がまるで分からなかった。あの率直なガルマと繊細なイセリナから、どうしてこんなジャジャ馬娘が生まれたのかさえいまだに分からなかった。考えるべきかと悩んだが、あちらこちらからパトカーのサイレンが聞こえてきたので、何もかも放棄することにした。

 

×××

 

「屈辱だ……」

 

繁華街の騒ぎから逃げ出したアンジェロがうめいた。ゆるくパーマのかかった髪は乱れ、妖しいほど美しい顔は悲痛に歪んでいた。

 

「ようやくアリーヤ・ラビリスを見つけたというのになんて事だ。あんなふざけた騒ぎのせいで、大佐のお望みを叶えて差し上げることが出来なかった……。糞、なんて女だ……!」

 

アンジェロは形良い唇を思いきり噛んだ。

 

ガルマ・ザビの忘れ形見であるアリーヤを捕まえる。それがフル・フロンタル大佐より与えられた大切な任務で、だからこそアンジェロは全力を尽くした。しかし任務は失敗に終わった。完敗だった。アリーヤの母親を人質にするべく自宅へ押し掛けたから、自宅もろもろとも破壊されて逃げられるわ、ようやくアリーヤの潜伏先を見つけてやって来たら変態ストーカー扱いをされ騒ぎになるわ、もうメチャクチャである。

 

「この屈辱は絶対に忘れないぞ、アリーヤ・ラビリス……」

 

アンジェロは憎しみをたぎらせた眼で、宙を睨んだ。

​●アリーヤちゃん2

……アンジェロ・ザウパーの判断は正しかった。しかし同時に間違ってもいた。

 

×××

 

「――んごごごごごごっ、んごごごっ、んごごごごぉぉっ……!」

 

アンジェロの寝室では、魂をふるわせる豪快な音が、叩きつけるように響いていた。頼もしいというか、力強いというか、とにかく色々と問題のあるダイナミック・サウンド(騒音)であった。

 

「んごっ、んごごごごごっ!」

 

窓をふるわせる……否、窓を破壊しかねないほどのイビキを発しつつ、ぐっすりと爆睡しているのはアンジェロではなかった。

 

ていうか、こんなどっかのガキ大将みたいなイビキを、美貌のパイロットであられるアンジェロがするはずもない。

 

言うまでもないかもしれないが、アリーヤ・ラビリスである。

 

「んごぉぉぉぉぉっ……」

 

24時間床下暖房がかけられている暖かな寝室で、上掛けをはね飛ばし、大の字になって眠りを貪りつくしている。なんというか、うら若き15歳の乙女とは思えないほどダイナミックで豪快である。

 

ええ、でまあ、はい、これ以上ないぐらいナイスバディなボディにまとわれているのは、某有名アパレルショップで購入したという、限定ガルマ・ザビTシャツだった。愛する父親のグッズは必ず集めているらしいが、こんな恥ずかしいものを堂々と着る神経がアンジェロにはまるで分からなかった。

 

それでもまぁ、Tシャツはポップで可愛らしいデザインなのだが、寝相がまたアクロバティックなものなので、Tシャツにプリントアウトされたガルマはぐちゃぐちゃに顔面崩壊しており、寝相のせいで胸までずりあがっている。そして自慢の某ブランドメーカーの限定ショートパンツも、なんだか目を覆いたくなるほど醜くゆがんでおり、ハリのあるぷるんとした美尻なのだが、色んな意味で残念な有り様となっていた。そんでもって手づくりガルマ・ザビの抱き枕を抱きしめているその姿は、セクシーなんだが目を覆いたくなる色々と謎な姿であった。

 

「んごっ、んごごごごごっ、ずごごごごぉぉっ……!」

 

怪獣のようなイビキをしつづけながら、アリーヤは暴風のような寝息をふきつける。

 

で…………この暴力的なイビキの被害をダイレクトに直撃しているのは、これも言うまでもないんだが、アンジェロである。

 

「……眠れん」

 

誰にともなく、アンジェロは呟いた。端正な彼の顔は、まるで悪ガキによって破壊されたヴィーナス像のように、悲惨なオーラをぷんぷん醸し出している。あ、ですよねぇー……。こんな騒音の大感謝祭セールのまっただ中で、眠れる強者などいるわけない。アリーヤの従者山田はスヤスヤと眠っているが、それは耳栓という完璧な道具を用いているからで、そうであるからこそどこまでも安らかな寝顔だった。アンジェロは唇を噛み締めた。

 

――アリーヤお嬢様とご一緒にお眠りになるのでしたら、こちらをお使いください。

 

そう言って山田は予備の耳栓に手渡してくれたが、適度に熟された加齢臭がぷんぷん漂うそれを使いたくなくて、アンジェロは断った。山田がひどく哀れみの表情を浮かべていたのを記憶している。今になってその意味に気づいたが、何もかも手遅れだった。

 

「ようやくアリーヤ・ラビリスを捕まえたというのに……これではまるで拷問だ……」

 

アンジェロはそれきり黙りこんだ。肩がふるえている。彼にはもう、言葉を口にする余裕がなかった。何で自分がこんな目に遭わされているのかと、脳みそを高速回転させている。

 

しかし同時に、白けたおもいがあった。感情の爆発、その行き先が見つからず、アンジェロは素直に受け止めていた。それは諦めであり、絶望であった。

 

そうであるからこそ彼の脳裏に浮かぶのは愛してやまない男の名前だった。

 

「フル・フロンタル大佐……」

 

フル・フロンタル大佐。赤い彗星(シャア)の再来という異名を持つ仮面の男。薄汚い男達の慰みものになっていた自分を救い出してくれた、深紅の光。その崇高で美しい光は、汚れた自分を洗い清め、そして包み込んでくれる優しさがあった。

 

そんな光をもたらしてくれたフル・フロンタルの望みを叶える為に、アンジェロは尽力を注いだ。ガルマ・ザビの血を持つアリーヤ・ラビリスを拘束し、ネオジオンへ連れて帰る。

 

――このイカれた娘を生かすも殺すも大佐次第。大佐のお望みを叶えて差し上げたと思えば……。

 

アンジェロはほくそ笑んだ。ゆるくパーマのかかった髪を整え、妖しいほど美しい魅力を惜しげもなく発散しながら、彼はベットで爆睡するアリーヤを一瞥する。

 

「……そうしてバカみたいに寝ていられるのも今のうちだ、この怪力ゴリラ女」

 

その夜、アンジェロ・ザウパーは一睡も出来なかった。

 

×××

 

「美味しいですわねぇ、このパンケーキ」

 

アリーヤは満足げに微笑んだ。爽さわやかな朝の緑に囲まれたホテルの庭で、巨大なパンケーキを頬張っている。真っ白いテーブルにはフルーツサラダとサンドイッチが並べられており、そのどれもがボリューム満点だった。言うまでもないかもしれないが、全てアリーヤの為に用意された朝食である。

 

「ヤマダ、あなたは食べないの?」

「いえ、私は……」

 

山田は微笑しながら首を横に振った。砂糖とミルクの入った熱いコーヒーを口に入れ、言葉を続ける。

 

「美味しそうなパンケーキですが、私が食べたらもたれてしまうでしょうね」

「あらそう。じゃ、それ私にくださる?」

「どうぞ」

「ありがと」

 

アリーヤはニッコリと微笑んで、山田のパンケーキをあっという間に平らげた。この大食い女めと、アンジェロは眉を潜める。拘束されている身とは思えないほどのふてぶてしさに、彼は苛立ちを覚えていた。どこまでも腹立たしいことこの上ないが、怪力ゴリラ女といえどアリーヤはガルマ・ザビの娘。かつてジオン公国を制したザビ家の末裔である以上、ジオン公国再建を掲げるネオジオンの兵士として手荒な真似をする事は出来ない。

 

――でなければこんな娘、とっくの昔に殺しているさ。

 

「……どうかしてアンジェロ?せっかくのお顔が台無しじゃない」

 

アンジェロは心の中で毒づいると、アリーヤがすかさず訊ねてきた。いつの間にかフルーツサラダもサンドイッチも平らげていたらしい。彼女は口直しとばかりに熱いコーヒーをグビグビと飲んでいた。アンジェロは眉をしかめた。

 

「私の顔に何かついているとでも?」

「悪霊でも憑いてるみたいにムチャクチャなお顔をしてるわ」

「少し眠れなかっただけです」

「ああ、わたくしのナイスバディな肉体を見て眠れなかったのね、分かるわ。でもわたくしはお父様一筋だから、あなたみたいな坊やは」

「いえ、あなたの豪快なイビキのせいで眠れなかったのです。それから私はあなたよりも年上です」

「神経質で細かい男はモテなくってよ」

「余計なお世話です。……あなたのお父様であらせられるガルマ様も神経質だったと聞きますが」

「わたくしのお父様は例外ですわ。というかアンジェロ、わたくしのお父様と張り合っていらっしゃるの。ふふん、あの素晴らしいお父様と張り合うだなんて百年はやっくてよ。せめてそのお顔を何とかなさいな」

 

アンジェロは軽く咳払いをした。ふと何気なく、窓ガラスに映った自分を見る。パープル色の目の下にはクマが浮き、白目は血走っている。乱れた髪は、もはや自分が普通の世界の住人ではないと教えているような気さえした。愛するフル・フロンタル大佐の顔を思い浮かべる。

 

「……顔を洗ってきます」

「そうして頂戴」

 

アリーヤはそれきり何も言わなかった。勝ち気としか言いようがない性格を隠すこともなく、堂々と振る舞い続けている。アンジェロはその意味について思考を巡らせたが、すぐに止めた。これ以上はフル・フロンタルが考えるべきことであり、そうであるからこそ、彼の部下に過ぎない自分が考えて良いこととは思えなかったからだ。

 

自分の思考、その全てはフル・フロンタルのもの。だから、だからこそ――。

 

「フル・フロンタル大佐があなたをどう思うか、本当に楽しみですよ」

 

アンジェロは小さく微笑んだ。

​●そんな日は永遠にこなくってよ

「あらあらごめんなさいねぇ、今日のランチは二人分しかないのよ、“水花おばさま”」

 

意地悪そうな笑みを浮かべて水花を見下ろすのは、ガルマ・ザビの愛娘アリーヤだった。絶世の美貌をむすっとさせて、わざとらしく巨大なランチボックスを見せつける。

 

「これはわたくしとお父様の分なのよ」

 

春のうららかな陽光に満ちていた公園が、一瞬にして凍りついた。そこはまさに恐ろしい修羅場と化していた。 そんな空気を作り出しているアリーヤは、水花の存在を切って捨てるように首を横に振る。それから愛する父ガルマの腕を取って、ゆっくりと体を寄せてきた。

 

「お父様、今日のランチはわたくしが作ったのよ。食べてくださいますよね?」

「み、水花の分は」

「食べてくださいますよね?」

 

ガルマは体を震わせた。目に入れても痛くない愛娘のただならぬ空気を察知し、コクコクと全力で頷く。こんなとき、言葉は無意味だいうことを彼はよく理解していた。

 

「うれしいわぁ、お父様」

 

自分が優位に立っていると確信しているせいか、アリーヤは満足そうな笑みを浮かべている。父親とはいえ、仮にも新生ジオンの頭領であるガルマを空気だけで黙らせることが出来るのは、アリーヤだけだった。であるからこそ彼女は、その特権を惜し気もなく水花に見せびらかす。

 

「というわけですから、あなたはそこら辺のお花の蜜でも吸ってくださいな、“水花おばさま”」

 

水花は何も言わなかった。他者から見れば年若い乙女のように映る年齢不詳の水花は、アリーヤの目から見ても可愛らしい女だった。 水花はいわゆるガルマの愛妾である。とはいっても、世の人々が思い浮かべるような女――優美というよりは華美で、誇り高いというよりは高慢で、気が強いというよりは攻撃的な――そういう、ある種の型に属する類いの女ではなかった。むしろ古風なぐらい貞淑な女だった。

 

(あざとい女ですこと)

 

アリーヤはそう判断していた。愛妾そのものへの嫌悪ではなかった。ザビ家の男たるもの、愛妾の一人や二人いて当然だと思っているし、それがある種のステータスだと信じてもいた。彼女が嫌悪しているのは、愛妾という身でありながらザビの名を名乗っていることについてだった。水花は母イセリナとは全く違う意味でガルマの特別な女であり、そうであるからこそザビの名を名乗ることを許されている。水花との間に生まれた子供にもザビの名を名乗らせているという。

 

(ザビの名を継いでいるからといって、わたくしのプライベートにまで入ってこないで欲しいわ)

 

アリーヤは眉を寄せると、厳しい表情をして水花の方へ眼をやった。華奢で小柄な体はほっそりとしなやかで、水中花のように儚い印象を受ける。水花は初めて会った時から何一つ変わっていない。自分も母も少しずつ年を重ねているのに、まるで時が止まっているかのように何も変わらない。

 

そんな女が控えめな笑みを浮かべてみせた。

 

「また今度ご一緒させてくださいね」

 

長いツインテールの髪がふわりと揺れ動き、甘い香りを漂わせる。そのあざとさに不快感を抱きながら、アリーヤは不敵な微笑を浮かべた。澄んだ青色の瞳がキラリと光る。

 

「そんな日は永遠にこなくってよ」