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ガンダム夢ごちゃまぜ
​■ガンダム夢小説ごちゃまぜ・登場人物

アリーヤ・ラビリス

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・175センチ/15歳
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  • 赤のセクターなタイトドレスがトレード・マーク

  • ガルマとイセリナの娘(機動戦士ガンダム)。お洒落で派手好き。

  • 美貌の両親の血を持つアリーヤは、絶世の美女であることは間違いないのだが、中身はメチャクチャなジャジャ馬娘。

  • 好戦的かつ攻撃的。繊細でナイーブだったガルマの娘とは思えないほど図太く逞しい。

  • 育ての親みたいな山田でも手に負えない有り様となっている。

  • おまけに身体能力が抜群に高く、自ら武術の鍛練を初めてしまったり、さらにはMSにどっぷりハマりこんでしまった。

  • 筋金入りのファザコンにしてマザコン。地球よりお父様とお母様が大事。

  • 亡き父を最高にカッコイイ男と確信しているので、現実の男に興味を示さない。

  • ようやくバナージ君に恋をしたものの、彼はミネバ(アリーヤの従姉妹)に惚れてるのであっという間に失恋。

  • 美貌の青年アンジェロからは怪力ゴリラ女とか、ファザコンゴリラとか言われており、いつも殴り合いのケンカをしている。

  • 愛機はメチャクチャ高機能なものの乗りこなせる奴がいなかったザク3改造機。

 

イリシア

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・16歳/150㎝
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  • ガルマ・ザビ(機動戦士ガンダム)と佐脇水花(オリジナルキャラクター)の息子。

  • 母との別れ、ザビ家の末裔であるがゆえの差別など、壮絶な幼少期を過ごした為に、他者への共感性が著しく欠落しており、一見すると伺える無邪気な性格はそのことの裏返しである。

  • そのため、戦争・戦闘を遊びやゲームとして捉えている節があり、破壊や人の死に対して何の呵責も無いという残虐性を持つ。

  • その一方で、母の愛情を強く求めており、窮地に追いこまれると母に助けを求めるという歳相応の反応を見せている。 

  • 母を傷付け、苦しめた世界(父親を含め)を憎んでおり、「壊れちゃえばいい」と本気で思っている。

  • 父親と同様、前髪を撫でる癖がある。

  • シャアに保護され、母と共に匿われていたが、ガルマの子息である事が発覚すると、“ジオン公国の次期頭領”として政治的に利用されてしまう。

  • その際母と生き別れている。

  • ニュータイプとしての素質の高さを見こまれ、ニュータイプ研究施設に送られてしまう。

  • 実験台に等しい訓練の末、ニュータイプとしての才能を開花させるも、生き別れた母の悲しい末路を知り、世界を心から憎むようになる。

  • 父親であるガルマへの復讐を目論んでいる。

 

九ハ式。

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155㎝/A型
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  • 佐脇水花のクローンにして、強化人間(強制的にニュータイプにされた人間)。

  • 母親を恋しがるイリシアの為に造られた。

  • 生まれて間もない為、自我が希薄で、口調も片言に近い。性格はマイペース。 

  • イリシアを喜ばせるものを好み、逆にイリシアを悲しませるものを嫌うイリシア至上主義者。 

  • そのため、嫌いなものはガルマ・ザビと恋人のイセリナ(直接の面識なし)。

  • ありとあらゆる事ありとあらゆることを完璧にこなすが、料理は大の苦手。

  • 容姿は佐脇水花と瓜二つだが、佐脇水花とちがって色気はなく、貧乳である(美乳らしい)

  • 搭乗機はキュベレイ。

 

佐脇水花

  • 故人。

  • イリシアの母親で、ガルマ・ザビの愛妾。

  • ガルマの子を身籠った際、シャアに匿われていたものの、ギレンに捕らえられる。

  • ニュータイプとしての高い素質と、類い稀な美貌をギレンに好まれ、愛妾にされていた。

山田

  • 元ジオン公国軍人で、ガルマ直属の部下だった。

  • これといって特徴のない顔をした老人。

  • 妻と娘がいたが、とある事件で亡くなっている。

  • ガルマの恋人であったイセリナとその娘アリーヤを守っていた。

  • おてんば娘のアリーヤにいつも振り回されている。

ダロダ

  • ガルマ直属の元部下。

  • ガルマとイセリナを心から尊敬する者の一人。

  • 山田と同じく、おてんば娘のアリーヤにいつも振り回されている。

登場人物の項目に貼って頂きたい絵.jpg
​●赤黒の天使

空から小雪が花のように舞い散り、ニューヤークシティを白銀に染めあげた。

 

街の中心にそびえ立つ高層ビル群は、雪と冷風によって銀色に輝きながら、その権威の強大さをしずかに物語っている。ニューヤークシティの雪景色は、そんな自然美と人工美の調和によって成り立っており、観光名所としても有名だった。

 

そんな経済都市の上空に、漆黒の光条がはしった。雲を切り裂いて、急降下する。光の槍に貫かれた地球連邦軍のMSが爆発を起こすと、そこから無秩序な炎が生まれ、パイロットを飲み込んだ。

 

「……何だっ!?」

 

地球連邦軍のMSによって破壊されたコックピットの中で、ガルマ・ザビは呻いた。黒い爆煙にコックピットモニターが遮られていたが、冷風に吹き払われたとき、彼はハッキリと目にした。

 

上空を舞っているのは、赤黒いMSだった。異様な輝きを放つそれは、まるで皆既月食のような不気味さをたたえながら、自由気ままに旋回している。味方MS――新生ジオン軍のMSではなかった。

 

「あれは――」

 

ガルマは大きく垂れた前髪を撫でた。コックピットモニターのサブウィンドを開き、正体不明のMSについて調べる。彼は眉を潜めた。それが見覚えのある機体に似ていたからだ。

 

旧ジオン軍のザクやグフ、キュベレイとは根本から違うように見える。ザクやグフはいかにも兵器然とした操行の暑い角ばったた形状をしているし、キュベレイは曲線を多用した鳥のような形状をしている。

 

さらに丸みを帯び、ふっくらとした人間に近い形状。頭が丸く、メインモニターと思われる双眼は大きい。額にはブーメラン状のアンテナが前方に突きだしている。口から顎の部分にかけては赤黒い突起物があるものの、女性的なフォルムの機体となっていた。全体的に赤黒い色で彩られ、右腕には鋭利な刀身のようなものが装備されていた。そして、背面から放出されている粒子――ミノフスキー粒子の色は、禍々しいほど美しい黒だった。

 

ガルマの脳裏に浮かぶものがあった。

 

宇宙を駆け抜ける白き流星。

人ならざるもの。

地球連邦の白い悪魔。

 

「……まさか、ガンダム……」

 

ガルマは腕を伸ばした。モニターに映るそれを、必死で掴もうとするかのように。

 

「ガンダムなのか……」

 

ガルマの口から、その名が叫びとなって響き渡る。

 

「ガンダム……!ガンダムだな!?私はお前を一度たりとも忘れた事はない!」

 

彼は拳を強く握りしめた。地球連邦軍との戦闘によって全身を強打していたが、もはや何も感じていなかった。ただ、拳を強く握りつづけていた。強烈な痛みすら忘れ、自分の人生を大きく狂わせた兵器を睨みつける。

 

ガンダム。

それはかつて、ガルマが追い求めたもの。

愛するイセリナとの約束を果たす為に、強く望んだもの。

そして自分の全てを奪い尽くし、新たなる世界へと導いたもの。

宙を舞う人ならざるもの。

それが、答えた。

 

『――あ~、もしかして死んじゃったぁ?』

 

暗闇の底から揺らめくような声が響きわたる。

 

「……何者だ……?」

 

ガルマはコックピットモニターのサブウィンドを見た。そこに映し出されているのは、クラシカル調のブラウスを着た美しい少年だった。いや、それどころの話ではない。まるで古の神々が自身の手で生み出したかのように、少年はどこまでも美しかった。

 

若いというよりは幼く、少女のようにほっそりした体つきをしている。密編みに結われた髪はパープル色で、瞳は透けるように淡い黒色。肌が抜けるように白くて、唇は熟れたリンゴのような色をしている。 そんな唇をこれ以上ないくらい歪めて笑う少年の顔は、ゾッとするほどの生々しさがある。この世のものとも思えぬ美貌だった。

 

ふと、幻を見たようなあやしい気分がガルマの胸をかすめる。この感覚を、かつてどこかで感じた事があった。それが何だったかを懸命に思いだそうとしていた矢先、少年がわざとらしく眉を下げてきた。

 

『あっれれぇ~?せっかく助けてあげたのにお礼もなしなのぉ~?新生ジオンの総司令官様ってそんなに偉いんだねぇ~。知らなかったなぁ~』

「わ、私を助けただと……?」

『え~、もしかして状況分かってないのぉ?今の今まで地球連邦の雑魚キャラにやられそうになってたじゃん~。頭大丈夫ぅ~?』

「私は……」

 

そこでガルマは我に返った。降下してくる機体を見つめながら、自分がどんな経験をしていたか思い返す。

 

ニューヤーク。

新生ジオンの建国を宣言して……

地球連邦軍の襲撃。

空から謎の機体が降下して、

そこに搭乗していた少年に救われ、

こうして対峙している。

 

「……君の、君の名前は?」

『はぁ?お礼はナシなの?』

「……助けてくれてありがとう。君の名前を教えてくれないか」

『ふぅん。やっぱりボクの事は知らないんだねぇ~』

 

そう言って笑う少年は小悪魔めいた天使、天使のような小悪魔、そのどちらかをすぐに思い浮かばせるものだった。その笑顔に、ガルマは一瞬、戦場にいることを忘れそうになる。しかし、彼はそれに抗うように考えた。不自然なほど愛くるしい少年の笑顔を見つめながら、懸命に思考を巡らせる。その集大成とも言えるような疑問が、こぼれるようにガルマの口からポツリと漏れた。

 

「……君、どこかで会っただろうか?」

『!』

 

少年は一瞬驚いた顔をしていたが、急に大声をあげて笑い出した。その無邪気な笑い声は氷で出来ているかのように冷たく、ガルマの心臓を凍りつかせる力があった。それは最も純粋なるものを有している。

 

そう、悪意だ。

 

『アハハハハハハハハ、ハハハハッ、ハハッ!!』

「な、何がおかしい……?」

 

ガルマは呆然とした声で訊く。しかし少年からの返答はなかった。壊れたように、笑って、笑う。その意味も目的も分からないまま、彼はジッと少年を見つめた。それが彼に出きる唯一のコミュニケーション手段で、だからこそ、その眼差しはどこまでも真摯なものだった。

 

少年の笑い声は、規則性がないコンピューター音のようにしばらく響いていたが、何の前触れもなくピタリと止まった。ガルマは真剣に答えを求めている。少年はそれを不快に思ったのか、めんどくさそうに前髪をかき上げた。

 

害虫でも見ているかのような表情を浮かべて、悪意に満ちた言葉を紡ぐ。

 

『ねぇ、脳ミソお花畑で出来上がってるの?会った事なんかあるわけないじゃん』

「……会った事もないのに、どうして私の名前を知っているんだ」

『うわぁ、本当に脳内お花畑なんだ~。イッターイ~。テレビだよ、テレビ。そんなんだから新生ジオンだの、建国宣言だの、イッタイ発言をテレビでしてたんだねぇ~』

「……私は本気だ」

『ふぅん、自覚症状すらないんだぁ』

「君、いい加減にしたまえ。助けてくれた恩があるとはいえ、これ以上の暴言は――」

『助けたぁ?あ~、それ本気で信じたの?』

 

ガルマは眉間にしわを寄せた。少年は獲物を見つけた猫のような顔をして、冷えきった目を光らせる。整った、宝石のように磨きあげられた歯がかすかに見えていた。

 

『邪魔だったから消しただけだよ。それ以上の意味なんてなぁんにもないんだよ?ボクの言ってること分かるよね』

「ジオンの兵士か。ギレン兄上に何を命じられた?」

『新生ジオンの総司令官様のくせに分からないのぉ?』

「質問を質問で返すのはやめたまえ!だいたい、ジオンの兵士がどうしてこのニューヤークに――」

 

ガルマが問いつめようとした矢先、背後で鼓膜を破りそうなほどの轟音が轟いた。重なりあった銃声が響きわたる。彼は浅い呼吸を繰り返して、メインモニターに映るMSを確認した。味方のMSではない。

 

空を、巨大な翼で打ちながら現れたそのMSは、新型のキュベレイだった。怪物のような姿を見せつけるように翼を大きく広げ、加速してきた。この状況が分からないほどガルマは愚かではない。呼吸が苦しかった。

 

『――二対一でズルい?』

 

ガルマの思考を先読みするように、少年は言った。前髪をゆっくりと撫でながら、愉しそうに目を伏せる。

 

『でもそれは違うよ。これはボクのオモチャなんだからねぇ?』

「……子供の玩具にしては高価だな。ギレン兄上はこんな物を君にプレゼントしたのか?」

『もちろん。ボクは特別だからねぇ』

「ニュータイプか」

『あはぁっ、やっと分かったぁ?ガルマ総司令官様ぁ』

 

そう言ってニヤリと笑った少年の顔には、得たいの知れない狂気が含まれていた。するとタイミングを見計らっていたかのように、通信を報せる電子音が鳴り響く。ガルマはパネルを操作して、サブウィンドウを開いた。

 

コクピットに座ったジオン軍専用パイロットスーツ姿の美しい乙女が映し出される。キュベレイのパイロットだった。

 

「……!?」

 

ガルマは目を見開き、サブウィンドウに映るを乙女を見た。口をいっぱいに開いたが、声は出なかった。喉が苦しげに鳴るだけだ。一言も発することが出来ないまま、彼は懸命に思考を巡らせた。しかしそれだけだった。巨大に膨れ上がった感情と理性の濁流にのまれ、流されてしまう。目の前に広がる光景、その全てに圧倒されていた。

 

艶やかな黒髪をツインテールに結んだ、美しい乙女だった。体もまだ少女期を脱していない、ほっそりとした体つきである。

 

かつて、ガルマが恋い焦がれた女に似ていた。いや、そのものだった。

 

「……っ!」

 

ガルマは目を見開いたまま指さし続けた。内蔵から絞りだしたような声を漏らす。答えを求めように、もう一つのサブウィンドウに映る少年を見つめた。彼は笑っていた。まるで何かの生理現象であるかのように、いつまでも笑っていた。それが一つの答えだと気づいたガルマは、大きく息を吸い込んだ。吸い込んで、今自分が言うべき言葉を吐き出す。声は震えていた。

 

「……か、彼女は死んだはずだっ……!?」

『ク……アハハハハハハハハ、ハハハハッ、ハハハハッ!!なぁにそのマヌケな顔~!?』

「笑ってないで答えろ!!君たちは何者だ!?」

『もう分かってるでしょ?』

「何がだ!?」

『ボクらの正体だよぉ?』

「なっ……な、んだと……」

 

寒気を覚えたようにガルマは身を震わせ、少年と乙女を交互に見た。二人の美貌が彼を惑わすように妖しくきらめいている。禍々しくも美しい彼らの色香に、全身の血が引く思いだった。これを知っている。この狂おしいほどの熱情を、ガルマは一度たりとも忘れたことがなかった。であるからこそ、過去の幻だと決めつけて胸の奥に封じ込めた。それが、その全てが現実のものとして現れた。言葉にする事すら恐ろしい。しかしだからといって屈するわけにはいかない。

 

新たな未来を切り開くリーダーとして、それは絶対に許されない。

 

「……水花は私の子を身籠ったまま死んだ。生きているはずがない。生きていたとしても、年が合わない。この娘はまだ子供だろう?」

『あれぇ、切り替え早くない?繊細でナィーブなザビ家の坊ちゃんなのに』

「今の私は新生ジオン総司令官、ガルマ・ザビだ」

『あぁ、ハイハイ。それは大変失礼致しましたぁ~』

 

少年は肩をすくめて両手を広げてみせた。それから何かを考えるように視線を外したあと、大きくため息をつく。ガルマは回答を促すように、じろりと睨み付けた。

 

『……イリシアさま』

 

乙女がガルマと少年の通信に割り込んだ。銀の鈴を振るように美しい声だが、そこに感情は含まれていない。冷たい機械のような声で、少年の名前をもう一度呼んだ。

 

『イリシアさま、なぜガルマ・ザビを、拘束しないのですか。私達はその為に――』

『はぁ、空気読めよ九八式ぃ~』

 

大きくもなく恫喝の調子もない、片言で話す乙女の言葉を少年――イリシアは遮った。鬱陶しそうに片手をあげて、顎でガルマを指し示す。九八式と呼ばれた乙女は、まじまじとガルマを見た。くりくりした大きな瞳が儚げに揺らめく。

 

『空気は、吸うものです、読むものではありません。イリシアさま、なぜ、そのような――』

『あああ~、ハイハイどうもスイマセンでしたぁ~。何でもいいからお前は黙ってろよ、九八式』

『かしこまりました、イリシアさま』

 

九八式はそれきり黙りこんだ。愛くるしい顔からは意志がまったく感じられず、能面のように無表情だった。その独特な雰囲気にガルマは覚えがあった。ジオン軍による極秘のニュータイプ人間製造計画、その失敗作が遺棄されたという話を聞いたことがある。

 

ガルマはジワリジワリと嫌な予感が背中を駆け上がってくるのを感じた。

 

「……水花のクローン人間か」

『そうそう~。ボクの為だけに造ってくれたんだよ?本当にバカみたいだよねぇ~。代替えにもならないよ』

「ギレン兄上が?」

『他に誰がいるの?』

「なぜそうする必要がある?」

『なぜって?』

「水花のクローンを君の為に造る理由は何だ?」

『だからもう全部分かってるでしょ?』

 

イリシアは挑発するように首を傾げてみせた。淡いパープルの髪が揺れるたび、甘やかな香りが漂ってくるような気がした。頭の中からワンワンと幻聴が響いている。それは恋い焦がれた女の甘い甘い声だった。

 

ガルマくん、ガルマくん。子どもが出来たの。ガルマくんと私の子どもよ。きっと男の子よ。え、どうして分かるかって?それは、それはね――。

 

……通信を報せる電子音が鳴り響く。ガルマはゆっくりと目を開けた。くらくらとする頭を抱えながら、回線を開いた。

 

『――ご無事ですか、ガルマ様』

 

ガルマの顔がパッと明るくなる。新生ジオン総司令官、その第一副官からの通信だった。彼が最も信頼する部下であり、最も尊敬する教師である。思わず大きな声をあげた。

 

「山田か……!」

『遅くなりまして申し訳ありません。状況は分かっております。直ちにそちらへ向かいます』

「場所は、場所は分かるのか」

『これでも一応ニュータイプですから』

 

山田は淡々と答えた。まるで教科書でも読み上げるように言葉をつづける。

 

『今ガルマ様の目の前にいるのは、若い娘と少年ですね?』

「ああ。どちらも新型のMSだ」

『分かっております。どうかその場を動かないで下さい。彼らに悪意はありますが、殺意はありません。あなたに銃口を向ける事はないでしょう。大丈夫です。彼らに殺意はありません』

『――はぁ、何もかもお見通しってわけかぁ』

 

イリシアは遊び飽きたように両手をあげた。それから意味もなく前髪を撫でると、パッとコントローラーを握った。歯の間から笑い声をもらす。

 

『見るからに雑魚そうなニュータイプだと思ったから無視してたけど、そうでもなかったみたいだねぇ~。おじさんの言う通り、今日はご挨拶しに来ただけだよ』

 

イリシアはニッコリと笑った。しかしその笑みはどこまでも冷たく、見た者をゾクリとさせる威力がある。かれはその表情を浮かべたまま、囁くように言った。

 

『“ガルマお父様”に、ね?』

「……水花は、水花は死んだはずだ!」

 

ガルマは精一杯の力を込めて反論した。しかしその言葉の矢も、イリシアの不気味な笑みによってスルリとかわされてしまう。

 

『それマジで信じてたのかよ。本当に脳ミソお花畑だな』

「そ、それでは水花は生きていたのか」

『だからボクが此処にいるんだろ』

「……そんな馬鹿な……」

『バカはお父様だよ』

「……イリシア、お前は」

『気安くボクの名前を呼ぶなよ。この薄汚い偽善者』

 

イリシアは断定的に言った。体の奥底から響くような重い声がコックピット内に轟き、ガルマの鼓膜を震わせる。

 

「水花が生きて……生きていただと……」

 

ガルマはモニターの中のイリシアを呆然と見つめた。視界が徐々に暗くなっていく。目には見えない大きな闇に呑まれるような感覚に苛まれながら、彼はその身を震わせた。恐怖からではない。もっと根深い何かがそうさせているのだ。業の類いかもしれないし、そうでないかもしれない。

 

水花、とガルマは心の中で呟いた。それは雨音のようにひっそりと反響する。

 

ガルマにとって佐脇水花は初恋の乙女であると同時に、初めて知る大人の女であった。であるからこそ彼の内心、その上席を占めている存在だった。それは愛するイセリナと婚約関係になった今でも変わらない。ガルマは底のない海を漂うクラゲのように、水花という海の中をさ迷い続けているのだ。佐脇水花という存在は、彼にとってある種の呪縛になりはてていた。

 

ガルマはもちろんそれに気づいていた。愛おしいイセリナを抱いた夜、それを思って背筋が震えることすらあった。そうであるにも関わらず、どうして水花を恋しく思ってしまうんだろう、彼にはその理由が分からなかった。自分と水花の子だと言うイリシアを前にして、そんな異常極まりない状況のなかで、ひどく嬉しくなってしまうのはなぜだろう。分からない。全く分からない。

 

『……お父様は本当に何にも知らないんだねぇ~』

 

イリシアは苦笑気味に小さく呟いた。前髪をくるくると弄りながら、目を細める。これが大人。オールドタイプ。成長するにつれて純粋さを失っていき、鈍化する。いや、腐り果てる。こんな奴のせいでボクのママは――。

 

『だからお母様は死んでしまったんだ』

「……待ってくれ。何があったか話を聞かせてくれ」

『何でボクがわざわざ教えてあげなくちゃいけないのぉ?知りたいなら自分で調べなよ、大人だろ?』

「私には知る義務がある」

『義務?大人ってそういうの大好きだよねぇ。ただの自己満足なのに』

「そうじゃない!私は――」

『あぁ、もういいよそういうの。ボクもう飽きちゃったしさぁ』

 

イリシアはうんざりしたように首を降り、膝の間の専用ポッドに収まった人工知能球型マシン・ハロに顔を向ける。機体塗装は深緑色で、目にあたるLEDは赤と金のオッドアイだった。

 

『じゃ、帰ろっかハロ』

『ハイハイ』

 

ハロが球体をクルクルと回転させながら、LEDを点滅させる。それが彼らの合図だった。イリシアがペダルを思いきり踏み込むと、機体は赤黒い輝きを放って上空へと飛翔した。イリシアのニュータイプ能力に反応して、背中にあるミノフスキー粒子放出口から、赤黒い粒子が湯水のように大量噴出される。それはまるで赤い翼だった。その翼が強大な力を発揮する。猛然と、圧倒的な勢いをもって拡大していく。

 

「……!」

 

ガルマは息を呑んだ。かつて見たことのない光景に圧倒されていた。世界が赤く染められていく。赤黒い光の粒子は大洪水が溢れだしたかのように、ニューヤークの街を覆いつくしている。まるで天使の衣のように、まるで悪魔の炎のように、街の彩りを変えていく。すべてが赤黒い光に包まれる。

 

その暴力的なミノフスキー粒子の散布量に、ただただ驚愕していた。

 

『じゃあまた今度会おうね、お父様』

 

赤黒い光の奔流、イリシアがかすかな冷笑を浮かべて言った。しかし彼の瞳に映っているのは憎しみだけではない。

 

深い深い哀しみが宿っていることを、ガルマはまだ知らなかった。

​●アリーヤちゃん1

​●アリーヤちゃん2

​●そんな日は永遠にこなくってよ

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