やさしい嘘、あざとい嘘
​■やさしい嘘、あざとい嘘・登場人物

一人の少女に恋したガルマ様のお話

 

佐脇水花(サワキ ミナカ)

設定
・17歳/150㎝/A型/6月22日/Eカップ
詳細設定

  • 水中花のように儚い美少女でありながら、熟れはじめた果実のような色香を漂わせている。

  • 男たちの加虐心を煽り、狂わせてしまう魔性の持主。

  • 清純そうに見えるが、男が女に対して抱くイメージを越える何かがある。

  • 強情でワガママな一面もあるが、ガラスのように繊細で脆い。

  • 寂しがりやであると同時に愛されたがりやでもある。

  • 敬語を用いることが多いが、恋人には女性言葉を用いる。

  • 父は地球連邦軍人だが、反逆の罪に問われて処刑された。

  • 父の名誉を回復してくれたガルマに恩義を感じている。

 

ガルマ・ザビ

設定

・20歳/173㎝/ジオン公国軍 地球方面軍司令官大佐

詳細設定

  • ジオン公国を統べるザビ家の四男であり末弟。

  • 地球方面軍を任される若き司令官。

  • 母親似の甘いマスクで、ジオン国民からはアイドル的人気で支持されていた。

  • シャア・アズナブルとは士官学校時代からの親友である。

  • ナイーブで繊細な性格。人を疑う事を知らない為、周囲からはザビ家の坊ちゃんと呼ばれている。

  • 地位を利用した傲慢さがなく、努力するその姿はジオン国民から高い人気を集めている。

  • 父の命乞いをする佐脇の健気さに心打たれ、赦免状にサインをした。

 

山田

設定

・52歳/170㎝/ジオン公国軍

詳細設定

  • 地球出身のジオン公国軍人で、ガルマ直属の部下。

  • これといって特徴のない顔をした中年男。

  • 妻と娘がいたが、とある事件で亡くなっている。

  • ガルマを心から慕う者の一人。

  • 娘はガルマのファンだったらしい。

​●やさしい嘘、あざとい嘘1

ニューヤークの街が夜雨にかすんで、蜃気楼のようにぼんやりと浮かんでは消えていく。その情景を執務室からぼんやりと眺めていたガルマは、雨音に混じって、乙女の泣き声が聞こえてくる事に気づいた。小さな鈴の音を思わせる声だった。今にも消えてしまいそうな儚い声の響きに、彼の心はキュッと締めつけられる。

 

知らぬ間に、声に吸い寄せられるように、足が扉の方に向いていた。耳をそばだて外の様子をうかがいながら、そっと扉を開けてみる。

 

「――何の騒ぎだ」

「ガルマ様……」

 

ガルマ専属の副官を勤める山田だった。東洋人特有の平たい顔に戸惑いの色が浮かんでいる。様子がおかしいことに気づいたガルマは声音を和らげた。

 

「姉上からご連絡があったのか?」

「はい、そうではございません。お客様といいましょうか。事前に伺っておりませんで」

「誰だね?」

「魅力的なご婦人です。未だお若いようで。佐脇と名乗っております」

「サワキ……」

 

ガルマは整った眉を潜め、大きく垂れた前髪を撫でながら、瞬時に思考を巡らせた。その名に覚えがあった。確か、先月に起きた軍事クーデターの反乱軍(地球連邦軍の残党)の一人だったはず。フルネームは忘れたが反乱軍の中心人物で、階級は少佐だった。とすると、ジオン軍法会議にかけられ死刑の判決を受けた佐脇少佐の親族――妻か娘か。

 

「今しばくお待ちくださいと、そのご婦人にお伝えなさい。私は着替える。山田、君は手伝わなくていい」

「よろしいのですか、ガルマ様。うら若いご婦人といえど、刺客である可能性も」

「なればこそ、間の抜けた格好で出迎えるわけにいはいかない。私はジオン公国軍の地球方面軍司令官ガルマ・ザビなのだ」

 

ガルマは強く言った。母親譲りの美貌が流星のように強く輝いた。彼はザビ家のプリンスとしてジオン国民からの人気も高く、占領地の地球でも多くのファンを獲得しているが、それは外見的な要素だけではない。ザビ家のギレン総帥やキシリアに比べてると、才覚・カリスマ性が劣るものの、純粋で実直な性格を有するガルマに人々は好感を抱いたのだ。まだまだ未熟ではあるものの、ただのお坊ちゃんではない。山田はそう判断しており、そうであるからこそ、黙って主人の名に従った。

 

ガルマは執務室と寝室を繋ぐ扉を抜け、山田が毎朝用意しておくジオン公国軍司令官用の第二種軍装を身につけた。パープル色の髪を整えると、居室へつながる扉を開ける。扉の外から聞こえる乙女のすすり泣きを耳にしたあと、山田にお通ししろと伝えた。

 

風とともに清純な甘い香りがただよってきた。ほんのりと熟した果実からこぼれ落ちる蜜のような香りだった。

 

ガルマは平静を保つのに苦労した。入ってきたのは、美しく可憐な乙女だった。二重瞼の目はくりくりと大きくて愛くるしい。憂いを帯びた黒目も大きくて、チロチロと儚く輝きながら、しっとりと涙で潤んでいる。魅力的な瞳は年相応だが、子供じみた印象は受けなかった。ぽってりと膨らんだ唇から漂うそれは、まるで熟れはじめた果実のようにフワリと柔らかそうだった。絹のように美しい黒髪はツインテールに結われていたものの、ほんの少しほつれており、雨の滴が小さな玉になって付いていた。清潔感漂う白いワンピースに身を包んだ姿は可憐でありながら、雨に濡れているせいで豊かな胸のふくらみと腰のラインがハッキリと見て分かった。まるで少女と女が同居しているかのようにアンバランスな美しさに、ガルマは息をのんだ。

 

乙女は訊ねた。小さな鈴を振るように可憐な声だった。

 

「……ガルマ様、でしょうか」

「いかにもガルマ・ザビですが、あなたは?」

「佐脇です。佐脇俊兼少佐の娘、佐脇水花(みなか)です」

 

ガルマは片眉をあげた。この美しく可憐な娘に見覚えがあった。確かニューヤークの教会で出征した父の無事を祈りに来ていたはず。彼はその事について思考を巡らせながら訊ねた。

 

「一度、教会でお会いしたことがありますね」

「はい。あの……、私……、な、何か失礼なことを」

「いえ、お気になさらず。出征されたお父様のご無事をお祈りされているようでしたので、お声を掛ける暇がありませんでした。それで、ご用件は何でしょう?」

「――ガルマ様、お願いが、お願いがございます」

「お願いとは?」

「どうか、どうか私の父にお慈悲を……、私の父をお助けください……」

 

佐脇は目に涙を溜めていた。彼女の愛くるしい顔には噴火寸前の火山を思わせる高ぶりと緊張があった。ガルマは気づかないふりをして、自身の前髪を撫でた。

理由はまるで分からないが、心臓が高鳴り胸に熱いものが込み上げてくる。

 

「……あなたのお父様はジオン公国に対して罪を犯したのです」

「お怒りはごもっともでございます……、ですが、もう一度だけ寛大なお心を……、お父様さまの許しの為なら何でも致します……」

「それは出来ません」

「ガルマ様……!」

 

遂に耐えきれなくなった佐脇は、ポロポロと大粒の涙を流しはじめた。ガルマの足元に身を投げ出して、彼を仰ぎ見ながら泣き声をあげた。その声は髪すらもすくませそうな何かが含まれている。

 

「どうか……!お願いでございます……!ガルマ様には憎い罪人でも私には大事な父……父を失ったら私は……これからなにを希望に生きていけば良いのでしょう……お願いでございます……父をお許しください……どうか、どうかお慈悲を……!」

 

雨音のせいだろうか、佐脇の声はその激しさの割にはやわらかく響いた。そこから漂うとろけそうなほど甘い香りが、ガルマの鼻腔をくすぐる。涙で濡れそぼった佐脇の顔はどこまでも美しく、そして狂おしいほどに淫らに思えた。じっと見ていると、彼女の豊かに盛り上がった乳房が白いワンピースの下で呼吸にあわせて上下するのが分かる。雨に打たれていたせいなのか、その乳房が艶かしく輝いていることにも気づいて、ガルマは訳のわからない衝動に駆られそうになった。獣欲を抱くなというほうが無理であった。

 

たとえば彼女をこのまま押し倒し、強姦でも構わないから自分のものにしてしまう。そんな浅ましい獣欲。妙に硬い表情のまま、ガルマは泣きすがる佐脇の肩にそっと手を置いた。彼女のやわらかみ、温もり、全身からかもし出される香りを楽しみながら、小さくため息をついた。

 

「……山田」

「はい」

 

扉を開け、興味を押し隠した表情の山田が現れた。ガルマは佐脇に視線を向けながら淡々と答える。ひどく落ち着いた声だった。

 

「赦免状を持ってきてくれ」

「……!」

 

驚いたのだろう、山田は一瞬躊躇したがすぐにかしこまりましたと赦免状を持ってきた。それをサッと軽やかに受けとり、ガルマは上品な微笑みを浮かべる。

 

「レディ、赦免状を持ってすぐお父様の所へお行きなさい。それには私のサインが記しある」

 

美しい乙女の瞳から水のように淡い光が燦めいた。はらはらと涙を流しつづけてはいながらも、まぎれもない歓喜の表情が浮かんでいる。白くほっそりとした指で赦免状を握りしめながら、佐脇は銀色の鈴を転がすような可憐な声音で、消えいりそうに小さく言った。

 

「ではこれで……、これで父は救われるのでございますね……!」

「そうです。赦免状には私のサインが記してあります。皆、信じることでしょう」

「ガルマ様……、ありがとうございます……、ありがとうございます……」

「礼には及びませんよ」

 

ガルマはもう一度微笑んだ。それからちらりと時刻を確認して、前髪を撫でる。その感触を楽しみながら続けた。

 

「ですからお急ぎなさい、レディ。車なら私が手配致しましょう。どうかお気をつけて」

「ガルマ様……、なんとお礼を申し上げたら……本当に、本当にありがとうございます……」

 

佐脇は何度も頭を下げた。彼女の涙は枯れることを知らず、後から後からこぼれ落ちて頬を濡らし続けた。 深い海の底でほとんど忘れられて咲きこぼれる水中花のような儚さに、ガルマの心は締め付けられる。あまりにも美しすぎて、そっと触れただけでもはらはらと壊れてしまいそうに思えた。

 

だからこそガルマは、佐脇を安心させるように頷いてみせた。

 

……雨はまだふり続いている。

 

×××

 

佐脇が部屋から出ていったあと、ガルマは窓辺に立ち、ずっと外を眺めていた。

 

「――ガルマ様、何故あのようなことをなされたのです」

 

扉の外で控えていた山田が訊ねた。平たい顔に困惑の表情を浮かべている。ガルマは視線をかれに向けることなく言った。

 

「あのようなこと?」

「佐脇少佐の処刑は今夜執行されます。今からでは間にあうはずがありません。無駄なものだとご存知の上で彼女に渡されたのですか……」

「彼女を安心させてやりたかった。あれでほんの少しの間は絶望から解放されるだろう。それにあの赦免状があれば希望を持って生きていけるはずだ。父は不幸な行き違いで命を落としたが、けして罪人ではないとね」

「……ではあの赦免状は佐脇少佐を救うためではなく、彼女を憐れんで」

 

ガルマはサッと振り向いた。困惑している山田の目をまっすぐに見つめ返しながら、ゆっくりと苦笑してみせる。

 

「泣きすがる乙女の願いを突き放す勇気がなかったんだ。姉上が知ったらお怒りになるだろうな」

「ガルマ様……」

「今夜は休む。少し疲れた」

 

ガルマは諦めたように両手をあげて、寝室に繋がる扉へと歩きだした。寝室のドアノブに触れた瞬間、念を押すようなゆっくりとした口調で、彼は山田に命令した。

 

「彼女について詳しく調べておいてくれ」

​●やさしい嘘、あざとい嘘2

教会の鐘が鳴る。

 

亡き人の眠りを揺り動かすように、シンシンと響きわたった。その音は空の上をゆるやかに流れ、長い余韻を残して消えていく。

 

ガルマ・ザビは顔をあげた。略綬のほかは殆ど飾りのない第一種軍装を身に付け、サッと前髪を撫でる。青みがかった紫色の髪がそよそよと揺れた。ニューヤークの夕空は、宝石のような美しい青紫色をしている。間もなく夜がはじまる。スペースコロニー(宇宙空間用人工居住地)では見ることが出来なかった、自然の織り成す美しい情景を彼はただ素直に楽しんだ。

 

もちろん、ただ漠然と自然鑑賞しているわけではない。例えプライベートであったとしても、ガルマはジオン公国軍の地球方面軍司令官、そしてザビ家のプリンスとしての振る舞いを怠ることをよしとしなかった。その名に恥じぬよう、彼は社交的かつ優雅な姿をいつも見事に演じきってみせた。それは一人の美しい乙女を前にしても同じである。

 

ガルマは教会の扉をそっと開けた。事前の連絡が徹底しているため、誰何は一切行われなかった。深い縦長の構造と、支柱の並びがつくりだす透視的な空間に魅了されながら、彼はゆっくりと内陣の祭壇へと突き進んだ。

 

ステンドグラスの神秘的な光の先に、花のように愛くるしい乙女が佇んでいた。

 

父の葬儀を終えたばかりの乙女――佐脇水花は、真っ黒いのレースを基調とした喪服をに身を包んでおり、それがより一層魅力的に見せていた。透き通るように白く透明な肌。艶やかな黒い髪をツインテールに結い上げて、可愛らしいレースのスカートをひらりと揺らしながら、神に祈りを捧げている。頭には浅い筒型のつばのない帽子――トークハットを被っており、そのせいで濡れたような赤い口紅から妙な色気が漂っていた。

 

ガルマに気づいた佐脇は慌てて一礼した。彼は会釈をかえし、手を小さく揺らして副官を下がらせると、優しい声で言った。

 

「お会いできて嬉しいです、レディ」

「……ガルマ様、私に何の用でしょうか」

 

佐脇は訊ねた。舌や喉ではなく、胸の奥から脳へダイレクトに囁きかけてくる、小さな鈴の音を思わせる声だった。ガルマは甘悲しい微笑みをたたえて、右手を胸に当てた。

 

「あなたの事が気にかかっていました。赦免状は間に合わなかったのですね」

「ガルマ様がそんな……赦免状を頂けただけでもありがたいのに」

「不幸な出来事です。あなたにはかない望みを抱かせてしまったことを悔やんでいます」

「……ガルマ様のご尽力のお陰で、父は罪を免れました。私はその事に感謝しているのです」

 

佐脇はもう一度頭を下げようとしたが、それを察知したガルマに止められる。両手は、彼女の小さな肩にしっかりと添えられていた。お互いの顔を見つめう。佐脇はほっそりとした指でハンカチをしっかりと握った。嗅覚ではない部分が感じとった彼女の甘い香りは、ゆっくりと、しかし確実にガルマの脳を酔わせていく。

 

「……これからあなたは教会で一生を送るつもりですか?」

「ガルマ様、どうしてそれを」

「神父から話は聞いています。いずれ尼僧になるつもりだということも」

 

ガルマは目を細めた。いついかなる時でも、佐脇水花に関する情報収集は怠らなかった。

 

佐脇俊兼は地球連邦軍設立当初からの伝統ある軍人一族の当主でであり、一人娘の佐脇水花に当主の座を譲る気でいた。しかし彼女は当主の座を失った。俊兼の妻である典子が、彼の弟に当主を継がせることにしたためである。

 

当主の座を追われた佐脇水花は、条件の良い家に嫁がされる話がまとまっていたという。妻の典子が娘を嫌っていることは一族のなかでは有名な話だ。つまり彼女は、その全てから逃れる為に尼僧になる道を選んだのだ。

 

(ようは厄介払いということか、醜い。当主が罪人にならなかったのは娘のおかげだと分からないのか)

 

ガルマは心のなかで呟いた。

 

地球の上流社会における女性は、端的に言ってしまえば、家の家格を高めるための商品でしかない。スペースノイド育ちの彼からすれば、きわめて保守的で時代錯誤的にすら感じた。

 

「……あなたの家の事情に立ち入るつもりはありませんが、私もザビ家の男です。お心、お察しいたします」

「ガルマ様……。わ、私にはもう相続権はありません。やがて尼僧となり、佐脇の名を捨てるのです。そんな人間に――」

「家の呪縛は死ぬまで続くのです。いや、死んでも逃れることは出来ません。ザビ家の男なら覚悟するせよ教えられてきましたが、今はそれを心から疎みたくなりました」

「ガルマ様?」

「あなたの輝くような若さと美しさを冷たい石壁の奥に閉じ込めて、永遠に佐脇家のものにしておこうとする。それがあなたにとってどんな不幸な事であっても」

「何を仰っているのか、私には……」

「……私があなたを閉じ込めるなら、あなたに相応しい場所を選びます。それはあなたにとって決して不幸な事ではないはずだ」

「ガルマ様、あの、何を」

「――“水花”」

 

ガルマは佐脇のほっそりとした腕を抱きしめて、その手にキスをした。佐脇はハッと愛くるしい目を見開いた。彼の暖かく、柔らかな唇のもたらす心地よさに、背筋から電流にも似た衝撃が生じた。佐脇は美しい髪を蠱惑的に揺らめかせて、逃げるように後ずさりしたが、ガルマに腕を引き寄せられてしまう。彼は甘い声で続けた。

 

「雨に濡れながら涙するあなたを見たときから、恋する者になりました」

「ガルマ様……そんな……」

「何かご不安に思うことでも?」

「そ、そうではありません、ですが、あの」

「私がお嫌いですか?」

「ち、ちがうんです……」

 

ガルマに視線を据えていた佐脇は、目にうっすらと涙を浮かべ、怯えるように震えていた。ガルマはため息をもらした。ステンドグラスに照らされる佐脇は、かすかな燐光を発しているようにすら見える。涙がポロポロとこぼれ落ちるたび、甘い香りがふわっと広がっていく。この世の者ではないと思わせる、幻想的な姿だ。いや、儚いというべきなのかもしろない。人工的な要素ではない、幻想的で儚いもので作り上げられた美しさ。

 

そんな美しい乙女が消え入りそうな声で言った。

 

「私は……私はこの教会で生きると父に誓いました……尼僧になって静かに暮らしたいんです……。それに、私は地球の女です」

「――水花、ニューヤークは既にジオン公国のものです。もしあなたの出自を蔑む者がいるなら、私が許しません。ザビ家の男としてあなたを全力で守ります」

「ガルマ様……お願いです……哀れな女の心を乱すような事はなさらないでください……」

「水花……」

「お許しくださいませ、ガルマ様……」

「…………」

 

ガルマはそれ以上何も言わなかった。いや、圧倒されていた。疑問を抱くことすら許されない美しさに脳が痺れてしまっている。涙を流す彼女を見ているうちに、意識がボヤけ、吸い込まれそうになる。冴えていた意識がトロトロと溶け、浮遊感に近い、異常な感覚にとらわれはじめていた。

 

佐脇水花という乙女を目にするたび、自分が背負うもの全てが、たいした問題ではないように思えてくる。いや、それだけではない気がした。この儚くも美しい乙女のなかには、美しさを超えるもの、男が女に対して抱くイメージを越える何かを感じ取ったのだ。

 

それはとても甘く、とても危険なものに思えた。

 

「――あなたの涙には勝てませんね」

 

ガルマは大きく垂れた前髪を撫で、教会の天井をちらりと見た。美しい花のデザインが施されたステンドグラスの光が、彼の意識を占めていく。だが、そんな意識の中でただ一つだけ確信しているものがあった。

 

この乙女が欲しい。

 

「今日はこれで帰りますが、あなたが教会から出てくるまでは毎日来ます」

「ガルマ様……」

「それでは」

 

ガルマは名残惜しそうに佐脇を一瞥してから、サッと歩きだした。耳元をくすぐる佐脇の甘い声を楽しむ時間は、もう残されていなかった。ジオン公国軍の地球方面軍司令官、そしてザビ家のプリンスとしての責務を全うしなくてはいけない。

 

……遠くで、教会の鐘が鳴っている。泣いているような、叫んでいるような、そんな音に聞こえた。

 

×××

 

「まだ尼僧になっていないとはえ、よく彼女に会えましたね」

 

そう言ったのは、これといって特徴のない顔をした中年の男――山田だった。ガルマは軽く手を振り、答えてやる。

 

「神父を買収した。戦時中とはいえ、教会も堕落しているものだ。そういう輩ばかりと会っていると、たまにうんざりしてくるよ」

「そういう輩だったからこそ、あの美しい乙女と再会できたのでしょう?しかし、あのままですと尼僧になるのも時間の問題では」

「それはない」

 

ガルマは断言した。副官の山田から手渡された大外套を羽織り、前髪を撫でる。

 

「神父に話はつけてある。水花は尼僧にはなれない。彼女の母親が連れ戻しに来るのも時間の問題だろう。家の格を上げることしか考えてない女が、商品価値の高い娘を尼僧にさせるはずないからな」

「……そこへあなたが救いの手を差しのべると」

「私は水花に手荒な真似はしない。彼女の心が開くまで丁重にもてなすよ」

「心開かなかったらどうするのです?」

「どういう意味だ?」

「もう好きな男がいるかもしれませんよ」

「そういう情報はなかっただろう」

「私も女心までは分かりませんよ。もしかしたら、男への恋心を胸に秘めているかも」

「彼女は私のものだ」

 

ガルマはそう言い切って、もう一度前髪を撫でた。その声に含まれた厳しさに山田はぎくりとし、彼を見つめた。ガルマは山田をまっすぐに見返した。視線が交錯し、なにかが二人のあいだをゆきかった。

 

ややあって、ガルマがポツリと呟いた。

 

「……キシリア姉上の耳に入らないよう内密にしてくれ」

​●やさしい嘘、あざとい嘘3

雪の降る道を歩くことには喜びと恐怖がある。

 

雪の何たるかを知る者と知らない者の違いだった。ガルマ・ザビはその両方を知っていた。喜びは、子供の頃に故郷のジオン公国(スペスコロニーサイド3)で愛犬とともに庭で味わった。人工降雪機によって作られた人工雪は、ジオン公国の屋内遊園地等で盛んに使用されていた。

 

恐怖は、地球降下作戦の最高司令官として経験した。自分の配下にいた部隊は、北米大陸の豪雪地帯で、兵員の六十三パーセントを失ったのだ。

 

夜に近づくにつれ、雪はその激しさを増してるようだった。ガルマの着こんだ丈の長いジオン軍用コートの肩にもそれは積もっている。路面にも新雪が積もりつつあったが、彼は機能性の優れた軍用ブーツを履いている。しばらくは気にしないで良かった。

 

ガルマが歩いているのはニューヤークの街で最も美しいと称されるバラ園だった。甘い香りに包まれるそこは、千種類以上のバラの花々が色あざやかに咲き乱れている。この庭園は西暦の時代からある歴史あるもので、宇宙世紀を迎えた今では美しい花々が一年中見られるようになっている。

 

庭園に人影はなかった。外には人払いの為に立たせておいた兵士が何人かいるだけである。

 

「冬に咲くバラは傷みもなく美しいそうですよ」

 

ガルマは青みがかった紫色の前髪をサッと撫で上げ、傍らの乙女に言った。並大抵の女ならば、柔和で甘美な響きをあわせ持つ彼の声に、どうしようもなく惹き付けられていただろう。

 

しかし、彼の心を虜にした乙女は何も答えなかった。彼女は細く白い指でツインテールに結われた髪を撫でる。それは雪の光を浴びて蠱惑的に輝いた。ガルマは優美な微笑を浮かべてみせた。

 

「水花さん、流行りのバラはお嫌いですか?」

「……いえ」

 

色あざやかなバラの花々を見つめていた乙女――佐脇水花は首を横に振った。鈴を振るように美しい声だが、どこか悲しげな響きを帯びていた。とはいえ、彼女ほどの美少女であればけして陰気な幸薄い暗さは感じられない。むしろ美しさがさらに増す。

 

「ジオン公国にもバラは咲いておりますが」

 

ガルマは最後まで言い終えないうちに、軍用コートを脱ぎ、佐脇の華奢な身体を包んでやった。ひんやりと冷えた、それでいて柔らかな頬についていた雪は指で拭った。その間、佐脇は何の抵抗も示さなかった。フランス人形のように長いまつ毛が震える。彼は話を続けた。

 

「地球のバラには敵いませんね。年を重ねた花というのは、不調や不具合を修理をしながら美しい花を咲かせるそうです。バラは美しく、人々を魅了する花ですが、若くてまだ頼りなげな細いバラより、年を重ねて力強く咲くバラの方が私は好きです」

「……ガルマ様のお家にもバラの花が咲いているのですか?」

「ええ、子供の頃は楽しみでした。いつもは怖い顔をしている兄上達もその日だけは優しくなりました。兄上たちは家令に命じて食べきれないほどの菓子を買ってくれました。子供だましの玩具も数えきれないほど。理由は今でも分かりませんが、それでも本当に嬉しかった。それ以外の日はお話することも出来ませんでしたから」

「…………」

「これは失礼。おしゃべりが過ぎましたね」

 

佐脇は可愛らしく微笑んで、もう一度首を横に振った。ガルマの軍用コートをキュッと指で握る。人間、特に女性は他者の体臭に敏感だが、佐脇も例外ではなかった。ガルマの軍用コートからは甘い香りがした。香水の類いではなかった。ジオン公国のプリンスには何か特殊な香りが発するよう仕向けられているのかしら、と彼女は思った。同時にそれを恥ずかしく思っていた。こんな風に誰かを強く意識したことがなかったからだ。佐脇はポツリと呟いた。

 

「……どうしてその話を私にしてくれたのですか?」

「そうですね……」

 

ガルマは胸ポケットから小さな箱を取り出し、その表面を撫でた。箱の表面に埋め込まれた特殊装置が赤く瞬き、やがて緑色になった。バラ園に仕掛けられた防犯装置が全て無効化されたのだ。

 

「ガルマ様……」

 

佐脇は素直に驚いた顔をしてみせた。人払いをさせてあるとはいえ、ガルマはジオン公国のプリンスである。自分の命を狙う者がどこに潜んでいるか分からない状況でありながら、彼は堂々と防犯装置を解除してしまったのだ。

 

「この方が水花さんも話しやすいでしょう?」

 

ガルマは優しげな発音で言った。普段とはまったく異なる印象の表情になって、口元をほころばせる。見るからに気立てのよさそうな、優しい顔がそこにはあった。が、彼はそれを恥じ入るような性急さで消した。

 

そうした表情の変化を佐脇は見逃さなかった。彼女は意外さを隠しきれないまま、ガルマと目を合わせた。彼は押し黙り、小さくため息をついた。大きく垂れた前髪を撫でる。

 

「……お気づきになられましたか。私はこういう人間なのです」

「……この上なく勇敢な方だと思っておりました」

「ハハッ、ニュースではそのように取り上げられていましたね。……軽蔑されますか」

「……そういうわけでは。その、将校としてのあなたについては、また別の感想を持ちます。物資が少ないなかで地球降下作戦を決行したのですから」

「誉めて頂いてるのでしょうか」

「………はい」

「何か思うところがおありですか?」

 

佐脇は小ぶりな頭をわずかにうつむかせた。ポツリと、消え入りそうな声で呟く。

 

「……失礼を承知で申しあげるなら、少し急すぎる気も致しました。地球降下作戦のような制圧作戦を実現するには、後方から大なる支援を必要とすると父が言っておりました。……ガルマ様の率いられた部隊がニューヤークに展開された際、ジオン軍主力の支援は殆どなかったように感じました」

「それは私の力不足です」

「この状況をつくりだしたのはガルマ様ではありません」

 

佐脇は、愛くるしい想像もつかないような強い口調で断定した。ガルマは彼女に視線を据えたまま、ゆっくりと前髪を撫でた。抑制された発音で尋ねる。

 

「あなたはやはり軍人の娘だ。恋よりも戦争に興味がおありのようですね」

 

佐脇の言っていることに間違えはなかった。

 

宇宙から地球へモビルスーツ等の兵力を投下し、地球連邦軍の施設や設備などを奪取する地球降下作戦は、長期戦に耐えうる戦力のないジオン公国にとって不利な要因しかなかった。

 

そしてそれを作り出したのはガルマではない。

 

この娘、思っていたより強情なのかもしれないな、そう考えつつガルマは軽く咳払いをした。

 

「私はこの戦争に一定の理解を示していますが、軍国主義者ではありません。ザビ家の男としての義務を果たしているだけです。もちろん責任も。……地球出身の水花さんからすれば意外に思われるかもしれませんね。我がジオン公国と地球連邦は今も戦争をしているわけですから」

「……そうは思いません」

「それはなぜでしょう?」

「……ジオン公国は地球の人と争っているわけではない。地球連邦と戦っているだけ。地球の人が敵ではない……ガルマ様はそう思っているのでしょう?」

 

ガルマは佐脇を黙ったまましばらく見つめていた。そして小さく息を吐くと、おそらく家族に見せる表情で――まったくあどけない苦笑を浮かべ、佐脇に語りけた。

 

「……それは甘い考えだと兄上達によく叱られます。きっとそうだと思います。だから私は……いえ、だから“僕”は表立って口にすることはしませんでした。……少し怖かったんです。所詮はザビ家の坊ちゃんだと言われてしまうことが」

「ガルマ様……」

「……驚かせてしまいましたね。僕はね、たまにこうして息抜きをするのです。生真面目に過ごすばかりでは疲れてしまうから。ね、軽蔑したでしょう?」

「いえ、そうしたくなるお気持ちは分かります……」

 

佐脇はそれきり黙りこんだ。驚いたというより、少し困惑していた。子供だわ、と彼女は思った。まさにその通りだ。いつもの、優美かつ優雅なプリンスの面影はない。どこまでも幼く、そしてどこまでもあどけない青年がそこにはいた。甘えているのか。たぶんそうかのだ。が、それだけではない。たとえ一人でも、ガルマはこうして子供に戻っていたに違いないのだ。

 

そうする必要がこの人にはあるのだと、佐脇は気づいた。ジオン公国のプリンスであることに慣れ、戦いにも慣れてしまったガルマは、人前で自儘にふるまう自由を失ってしまった。だから、精神のバランスを取り戻すために子供に戻っているのだ。

 

そうしなければ心が壊れてしまうから。

 

「……音楽でもかけましょうか」

 

ガルマはポツリと呟いた。意味もなく前髪を撫でながら、バラ園に設置されている壁面ディスプレイを作動させる。モーツアルトの傑作と名高い交響曲「四〇番」の神々しいメロディーがバラ園を満たした。

 

ガルマは屋根のある大きな休憩所へ腰を降ろした。佐脇を手招きする。佐脇は大人しく隣に座った。そこでようやく雪が止んでいることに気づいた。色鮮やかに咲き誇るバラの花々も、今は雪化粧に覆われほんのりと輝いている。

 

「この後はどうするのですか?」

 

困惑した表情を浮かべたままの佐脇が尋ねた。ガルマは前髪をいじくりまわしながら、いくらか遠慮がちに答える。

 

「そうですね。水花さんとお話が出来たら思います」

「ここでお話するのですか?」

「それは……」

 

ガルマが答えようとした瞬間、風が鳴った。二人は空を見上げた。空は重い色合いの雲が消えることなく、いつまでも漂い続けている。

 

またすぐに雪が降りだすだろう。

​●あなたのお名前は?

避難実施の命令は二週間前に届いた。

 

ニューヤークの片隅にひっそりと存在する村に、ジオン軍の支援部隊が到着したのは、それから間もなくの事だった。その一部は村人たちの護衛と誘導にあたる避難支援隊である。避難中の食事、宿泊、また避難先での当面の住居等はガルマ・ザビ司令の名の下に手配すると確約されていた。

 

しかし村を捨てるという悲劇は厳然として存在する。自分たちで田畑を切り開き、家をたて、村を発展させてきた。自分たちの手で作り上げた故郷は、間もなく行われる地球連邦軍とジオン軍の戦いによって失われる。

 

それでも村人たちに選択肢はなかった。この村はジオン軍の占領下にある。どれほど悲しみと怒りを抱いたところでその現実が変わるわけではなかった。

 

だがそのかわり、君たちの未来を可能な限り配慮する。親と引き離される子供、子を失う親はでない。ただ戦いに巻き込まれるよりはマシなずだ。ガルマ・ザビはそう言っているのだ。

 

そうして村を捨てる準備が始まった。

 

ガルマ・ザビ司令は支援部隊本隊とともに村人の旅立ちを見送った。これも地球方面軍司令官としての責務だと信じていたからである。

 

ジオン軍の避難車に積める限りの荷物が積み上げられた。すでに作物の種まきや田植えは済んでいたので、種モミを運ぶ手間はなかった。村人たちにとって、それは悲しむべきことだった。戦いが起きたあとで田畑がどうなるか、考えるまでもないからだ。

 

皆、避難車の中から名残惜しそうに村を見渡していた。まるで二度と戻らない地に別れを告げているようだとガルマは思った。戦いが終わり、無事に故郷へ帰れたとしても、この村が元通りにならないことを彼らは知っているのだ。

 

と、ガルマのすぐそばに停車していた地乗車で村人たちの叫び声があがった。村の女たちが声を荒らげ、一人の少女を追い払っている。少女はそのまま地面に倒れた。

 

「何をしている」

 

ガルマはかれらへ近づき、厳しい声でたずねた。兵士は弱りきった声で答えた。

 

「はい、実は村人たちがあの少女を避難車に乗せるなと怒り出しまして……どうしたものかと……」

「何?」

 

ガルマは視線を村人たちに向けた。かれらは敵意に満ちた目で少女を睨んでいる。少女はうつ向いたまま立ち上がろうとするのだが、どういうわけか立ち上がれないでいる。彼女の傍らには補助具の杖が無造作に転がり落ちていた。

 

ガルマは大きくたれた前髪を撫でると、そのまま杖を拾い上げた。砂を払いながら、少女の身体に怪我がないことを確認する。

 

そこでようやく、少女の顔をまじまじと見た。まだ十代前半のあどけない顔をした少女だが、咲き始めた花のような色気がある。ツインテールに結われ黒髪からは甘酸っぱい香りがした。この年齢の少女が女の匂いを発することに少しだけ驚いていたが、ガルマは可能な限り平静を装った。膝をついて、ゆっくりと手を差しのべる。

 

「……お怪我はありませんか、レディ」

「あ、ありがとうございます。あの……」

「ガルマで構いませんよ」

 

ガルマは先回りして答えた。それから少女の体を包み込むように支えると、両腕で抱き上げる。抱き締めた身体はあまりにも細く、そして軽かった。少女は頬を桜色に染め、ポツリと呟いた。小さな鈴が鳴るような、美しく可憐な声だった。

 

「……が、ガルマ様……一人で歩けます……」

「そういうわけにはいきません、レディ」

「で、ですが、あ、あの」

 

少女が何かを言いかけたとたん、お腹がグーッと鳴った。恥ずかしそうに顔を伏せる。ガルマは目を細め、小さな声でひとりごとのように尋ねた。

 

「避難食は手配させていましたが」

「……しばらく食欲がなかったんです」

「お腹を空かせているのに、ですか?」

「……いえ、その」

 

少女は顔をあげると、悲しそうな表情でガルマを見つめた。瞳の中に大粒の涙がたまっていることに彼は気づいた。彼女は消え入りそうな小さな声で答える。

 

「……私の父は地球連邦軍人なんです」

「そういうことでしたか」

 

ガルマはそれ以上何も言わなかった。村人たちの異常な敵意、その原因を理解したからだ。地球連邦軍はニューヤークの地を民間人共々捨てている。村人たちはその怒りを年端も行かない少女にぶつけているのだ。おそらくこの両足も村人たちの手によるものだろう。

 

「レディ、あなたに罪はありません」

 

ガルマは村人たちを見回しながら答えた。一瞬、かれらは凍りついた表情を浮かべたが、すぐに少女を睨み付けた。ガルマは抑えた声で言った。

 

「この場で彼らを処罰することも出来ますが」

「……村の人達は悪くありません」

 

少女は小さな手でガルマの胸をそっと掴んだ。彼女の視線は彼だけに据えられていた。

 

「誰も悪くないのです。だからぶつける所がなくて苦しんでいるだけなんです。だからどうか、お許しください」

 

少女は強い口調で言った。意思が強いというより懸命にそうあろうとしているようだった。なかなかの勇気だ、少なくとも私の子供時代よりはましだとガルマは思った。だからこそ、見て見ぬふりは出来なくなった。というより、少女を一目見た時からその気は失せていた。まさに勝者の余裕そのものだった。

 

「……そこの療兵」

 

ガルマは小さく咳払いをして、近くを通りかかった医療兵を呼び止めた。振り向いた医療兵は好奇心を隠しきれずに少女を見つめていたが、すぐに敬礼をした。

 

「はい」

「彼女を医療搬送車に乗せろ。それからジオン陸軍病院の院長に部屋をひとつ用意して貰いたいと伝えてくれ。良いな?」

 

医療兵は驚いた顔をしてみせたが、すぐに手配きたしますとその場を立ち去った。少女は驚いたような、安堵したような、そして拍子抜けしたような表情でガルマを見つめた。ガルマは親しい者の前でしか見せない笑みを浮かべてみせる。秘密の恋を打ち明けるように慎重な口調で尋ねた。

 

「レディ、あなたのお名前は?」